第8節 研究所の歩み

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(1)生活文化研究所
最近10年間の研究班と研究報告書
研究所創設前史と言うべき昭和43(1968)年に発足した「安城学園大学食品公害研究会」の時代を研究所の揺籃期とし、創設後の10年(~昭和57年)を草創期、次の10年(~平成4年)を成長期とすれば、その後のこの10年間はもっとも活動的な壮年期であると言える。それは活動した研究班の数にも、研究成果として刊行された報告書の数にも表れている。
生活文化研究所は、創設以来、校舎の一隅を使っていた。平成6(1994)年度に、当時の旧中央棟の部屋から移転して、初めて独立した建物をその拠点とすることになった。これは岡崎キャンパスの再開発工事によって新校舎(7階建て2号館)が完成したことに伴うものである。新しい研究所は決して広くはないが、資料室、事務室、展示室を持つ立派なものとなった。
研究所が発足したときに結成されたのは、生活環境班、造形研究班、安城地域調査班、もめん研究班、比較女性史研究班の5班で、その後の10年間に東南アジア研究班、郷土音楽研究班、人体の科学研究班、祭研究班の4班が研究活動を開始している。更にその後の10年間にスタートしたのは、食用ナッツ研究班、横浜絵研究班、カナダ研究班、アメリカ研究班、コーヒー産業研究班、高齢者の食習慣と健康研究班の6班で、以上で創設以来結成された研究班は合計15班になった。
近10年間では、CAE研究班、おもちゃ研究班、異文化理解と言語教育研究班、民俗文化研究班、脂質研究班、旅情報発信研究班の6つの研究班が活動を始めている。このうち常時活動をしているのは、6~8つの研究班である。
研究班の研究活動の成果は、それぞれの関係学会・国際学会や後述する学内の研究報告会で発表されながら、研究報告書としても刊行されている。この10年間に刊行された報告書は14冊、30年間の合計では42冊を数えた。
最近10年間の研究班と研究報告書は次のとおりである。
(上記図版「生活文化研究班と研究報告書」参照)

研究報告会の開催と「研究所だより」
最近の研究所活動に関して特筆すべきことが2つある。ひとつは、創設以来、毎年大学祭に開催していた講演会、展示会、スライド上映会、実演会などがしばらく途絶えていたが、平成8年11月に研究報告会が開催されることになり、協賛行事が復活したことである。その後は順調に推移して13年度に6回目を数えた。
ここに例として、11年度の第4回研究報告会のプログラムを紹介する。

「第4回 研究報告会プログラム」
1、カナダにおける多文化主義 カナダ研究班 木村英雄
2、高齢者の健康と生活習慣ならびに環境との関わりについて 高齢者の食習慣と健康研究班 菅瀬君子
3、動物をめぐる習俗―ブタ― 民俗文化研究班 西尾一知衛
4、おもちゃの収集結果と今後の研究活動方針 おもちゃ研究班 川瀬憲司
5、駅弁倶楽部 ヘルシーな駅弁を追い求めて 旅情報発信研究班 森屋裕治
6、n-3系高度不飽和脂肪酸を多量に含むえごま油の酸化安定性の向上の研究 脂質研究班 山口直彦

もうひとつは、研究所として初めての定期刊行物「研究所だより」が創刊されたことである。B5判4ページのもので、研究班の研究の紹介や解説などが盛り込まれている。研究所の諸活動の学内外への発信のための格好のメディアになっている。9年11月に第1号が発行され、10年に第2号、11年以降は毎年2回発行され、14年春で第8号となった。
例として、13年度の「研究所だより」第7号の内容を紹介する。

「研究所だより」第7号(平成13年11月発行)
・アルミニウム(Al)蒸着フィルムによる油脂食品の保存効果 脂質研究班 山口直彦
・国際栄養学会に参加して 高齢者の食習慣と健康研究班 堀江和代
・進化する駅弁 旅情報発信研究班 内田州昭
・民俗文化の伝播と変容の研究 民俗文化研究班 倉沢宰

なお、生活文化研究所は、学園創立90周年記念事業の一環として2つの事業を実施する。ひとつは、「生活文化フォーラム」の開催である。平成14年度のテーマは「『食』で築く健康生活」である。これを初年度として恒常的に開催する予定である。もうひとつは、『生活文化研究所30年史』の刊行である。これにより30年間の活動の軌跡を記録する。

(2)経営研究所―経営学の発展深化のために―
経営研究所は、経営学部開設と同年昭和62年7月に、経営学および関連諸学の研究を行い、その成果を経営学の教育に反映させるとともに、産業社会の発展に貢献することを目的として開設された。また経営研究所は、経営諸学の研究、経営諸学の研究・教育にかかわる助成、機関誌や図書などの研究成果の発表、研究会・講演会などの開催、他の研究機関との学術交流、外部からの研究・調査の委託などへの積極的な活動をめざして設立された。
研究所の機関誌「経営研究」は、昭和63年2月に創刊号が発刊され、その後、毎年2、3号のペースで発行、平成13年度末現在15巻通巻39号まで刊行されている。
研究所は開設以来、著名な講師を招いた講演会を精力的に行い、経営学部の教員、学生ばかりでなく学外にも開放し、多くの参加者を得ることで社会人教育の一端を担ってきた。講演会の講師として、トヨタ自動車の「かんばん方式」の生みの親と言われる大野耐1副社長や、日本の「ミスター円」と呼ばれ、世界の金融問題の専門家として有名な榊原英資氏らを招いている他、経営学の権威や海外姉妹校の学長などの参加を得た。
研究所は、研究員である経営学部教員の日頃の研究成果を発表する機会として、学内研究発表会を定期的に行っている。また、個人研究はもとより共同研究も積極的に奨励してきた。西三河共同研究グループを平成6年にスタートさせ、西三河地域の都市構造について研究調査を実施、その成果を「経営研究」通巻20号に発表した。また、10年には「環太平洋地域諸国の国家政策と民俗の共生」「エコライフ構築による個人・企業の意識変革への取組み」「自立と共生の時代における複雑系科学の適応性について」「ボーダレス化時代における企業の変化と情報ダイナミズム」の4つのテーマで共同研究を組織し、その成果を13年3月の「経営研究」特別号に発表した。研究所の研究活動のなかで、特筆に値するのが日中共同研究の実施である。この共同研究は、中国国家経済体制改革委員会の経済体制・管理研究所との共同で「日中企業比較研究に関する協定書」に調印、国際的に進められたものである。この共同研究については「国際交流」の項に詳しい。
経営研究所は、経営学部の研究・教育のよりどころとしてその存在価値を発揮している。

(3)コミュニティ政策研究所
コミュニティ政策研究所の設立
新学部の名称がコミュニティ政策学部と決まり、学部の教育研究の構想が煮詰められていくなかで、この学部を支える社会的条件と、この学部が取り組み、かつ果たし得る課題を可能な限り明らかにしておきたいという願いをこめて、学部設立に先立ち、大学付置研究所としてコミュニティ政策研究所が立ち上げられることになった。これは先行する2つの学部がそれぞれ研究所を持っていることを前提にしたものである。
研究所の設立については、新学部開設準備室で検討し、平成8年5月28日に規程を定めて発足した。初代研究所長は寺部曉学長代行(同年7月から学長)であった。
この研究所の形は、基本的に先行2研究所のそれを踏襲し、コミュニティ政策学部設立後はこの学部の構成員が中心となるものであった。しかし、コミュニティ政策学の研究という対象の特殊性、すなわち学際性、市民とともに創る実践的性格から、当初から学内の全教職員や市民などのコミュニティ政策に関心を持つものに開かれた組織とされた。
スタートした研究所は、継続的な事業計画を立てて、活動を開始した。そのテーマは後述のとおりであるが、設立記念と銘打った8年8月2日のシンポジウム「住民主体のコミュニティづくりの到達点と課題」は、講師に自治省、愛知県、豊田市の各行政担当者および春日井市のコミュニティ組織のリーダーを招いて、豊田市役所を会場にして行われ、自治体職員をはじめ大学研究者、市民150名の参加を得た。続いて、10月5日に安城市で開催された第2回シンポジウム「コミュニティづくりがめざす共同のこころと活動」は、愛知県下の典型的な4種の市民活動の担い手から、コミュニティへの期待を語ってもらった。この両シンポジウムでコーディネーターを務めたのが、当時名古屋大学教授の中田實であった。翌9年4月に中田が愛知学泉大学に着任すると、2代目の研究所長となった。10年4月の学部発足時からは、学部専任教員の渡名喜庸安が、12年4月からは山崎丈夫が所長となった。

『コミュニティ政策研究』の刊行
本誌は、コミュニティ政策研究所の紀要として平成10年度から毎年1回発行(B5判、約100ページ。編集は、研究所運営委員)されている。本紀要の刊行は、本学の教員・客員研究員をはじめ、研究所活動を通してのコミュニティについての理論・政策、活動に関する研究の到達点をまとめることが目的である。研究所は、本学の専任教員を研究員とし、地域でコミュニティ活動に取り組む人々を客員研究員(平成13年現在、約30名)に迎え、更に、本学部学生を学生会員とするユニークな構成をとっている。特に、客員研究員の実践活動に裏打ちされた研究参加が、研究所に厚みを加えている。

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本紀要は、コミュニティ政策学部の紀要とならんでコミュニティ政策学を究明していくことになるが、もっぱら研究所の研究活動と連動して刊行されている。紀要の内容は、教員の業績掲載を除き、ほぼ学部紀要に準じているが、教員の個人論文および研究所のプロジェクト研究の成果を特集とする方向で編集されている。
次に、3年間に刊行された第1号から第3号までの紀要の主なテーマを挙げる。

第1号「コミュニティをめぐる理論・政策の到達点と活動の現段階」
第2号「愛知県コミュニティ地区の活動の現状と課題(第1プロジェクト研究会の調査と連動)」
第3号「NPOの可能性と課題(第3プロジェクト研究会の研究と連動)」

以上のような主旨で刊行される本紀要は、研究所の研究蓄積を反映し、より充実したものに発展していくと期待されている。

研究プロジェクトの活動
研究プロジェクトは、研究員・客員研究員の希望によって編成され、狭域コミュニティ・広域コミュニティ・超域コミュニティの3つの領域に対応して組織されている。
研究会は、当初6つで発足、その後、2つの研究会が休止し、代わりに2つの研究会が新規発足して、現在も6つの研究会が活動している。各研究会のテーマは、次のとおりである。また、年1回、各研究会の世話人による交流会議が開かれている。

●狭域コミュニティ領域
第1プロジェクト研究会「コミュニティ活動事例の収集管理とシステム化の研究」

●広域コミュニティ領域
第2プロジェクト研究会「分権化に対応するコミュニティ立脚型自治システムの構築に関する実証的研究―豊田経済圏を対象として」(現在休止中)
第3プロジェクト研究会「現代市民社会論とコミュニティ―NPO法をめぐる諸問題―」
第4プロジェクト研究会「コミュニティと行政の関係をめぐる諸問題―コミュニティに及ぼす行政作用(運輸、通信、警察など)の現状と課題―」

●超域コミュニティ領域
第5プロジェクト研究会「国際化と人権―異文化の関係を個人の視点で考える―」
第6プロジェクト研究会「コミュニティ情報のホームページ搭載と活用に関する研究およびその実行」(現在休止中)

●広域コミュニティ領域
第7プロジェクト研究会「ウエットランドとコミュニティ―その関係の改善を目指して―」
第8プロジェクト研究会「コミュニティにおける司法の役割―正義へのアクセス―」

講演会・シンポジウムの開催と機関誌『コミュニティ』の刊行
研究所は、学部設置の2年前である平成8年度に創設されて以来、その事業として、講演会・講座やシンポジウムを開催してきた。これらの事業は、学内外の講師・シンポジアストおよび参加者の協力を得て、いずれの企画も成功をしてきた。これらの講演会などの内容は、研究所の機関誌『コミュニティ』に収録して、広く参加者以外にも普及している。同誌は、住民・行政・企業・各種住民団体および本学部学生と研究所を結ぶ、研究・交流の広場である。同誌は、9年12月の創刊以来、毎年1冊ずつ刊行され、現在第4号にいたっている。以下、紙幅の関係から内容を省き、講演会・シンポジウムなどのテーマを開催順に紹介しておく。

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平成8年6月28日 講演会 松下圭一「分権と市民の時代の政治の課題」
8年8月2日 シンポジウム「住民主体のコミュニティづくりの到達点と課題」
8年9月6日 講演会 富田暉一郎「グローカリズム時代における市民自治」
8年10月5日 シンポジウム「コミュニティがめざす共同のこころと活動」
8年11月30日 講演会 神原勝「地方分権と市民自治」
10年2月21日 シンポジウム「地域社会と大学―協力の具体像を求めて」
10年12月5日 公開講座 中田實・山崎丈夫「これからのコミュニティ」(豊田市共催)
11年2月20日 シンポジウム 駒井・金・駒山・斉藤「外国人との『共生』を考える」
11年4月27日 公開講座 細内信孝「コミュニティ・ビジネスとは何か」
11年12月7日 公開講座 中田實「コミュニティの現状とリーダーの役割」(豊田市共催)
12年3月18日 シンポジウム 渡名喜・遠州・山崎「地方分権時代の行政とまちづくり」
12年11月25日 シンポジウム 今田・三島・中田「地域社会づくりへのNPOの役割」

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