第3節 教育にイノベーションを

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(1)施設・設備の拡充

施設・設備に関しては、従来の安心・安全は無論のこと、快適な学習環境の維持に加え、エコロジーをはじめとした環境に対する意識の向上やICTの導入による新たな学習環境の整備といった側面が加わってきた。この10年で実施した整備は次のとおりである。

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(2)2学期制総括と3学期制への展望

平成19年度(1997)から実施した2学期制だが、実施後20年以上が経過する中でメリットとデメリットが明確になってきた。メリットとしては、授業時間が確保できたこと、学期ごとの各分掌の会議がなくなり教員の負担が軽減されたことである。デメリットとしては、前期後期が切り替わる10月末から11月初めに大学に発送する調査書の混乱と、3年生担当教員の極端な負担増である。調査書の内容の切り替えは10月末となり、この時期に出願期間のある大学に、更新された生徒の調査書と更新されない生徒の調査書が送られるという事態が起き、出願に際し3年生担任に強い緊張が強いられたりした。また、前期終業式と後期始業式の間の秋休みが土曜日曜を含めて3日間ほどしか取れず、生徒の気持ちの切り替えができないという面もあった。

そこで、令和3年度(2021)から、3学期制への移行となった。授業時間を確保のため、長期休業の直前も6時間授業とした。また、学期ごとの各分掌の総括は行わず、10月の定期考査の時期に総括会議を行い、年2回の総括にすることで教員の負担増にならないように配慮した。大学への調査書の内容の切り替えは、学期の切り替わる1学期末・2学期末に行い、10月末から11月初めにかけての混乱を解消した。このようにして、2学期制のメリットを生かし、デメリットをなくすことができた。また、定期考査の名称は中間考査、期末考査などは用いず、第一考査、第二考査などとした。

3学期制に移行することで、夏休み・冬休みの長期休業で学期が切り替わる。今後は、長期休業を区切りにした更なる学力向上を図る計画を立て、また、学校行事の精選や適正な時期への配置なども再考し、3学期制の内実を充実させていく方向である。

(3)スタディープログラム・スタディサプリの導入

自学自習の促進を目的に、主にベネッセのスタディープログラムとリクルートのスタディサプリの2つを使用している。以前はベネッセのスタディーサポートを使用していた。これは、個人面談での利用を中心とする教材で、担任は生徒個人の弱点分野や学習習慣の詳細を把握した上で、生徒の自学のための指導を行った。しかし、個人面談の時間がなかなか取れない、診断テストが難しいなどの理由により、令和2年度(2020)より、基礎学力を重視した内容でより自学に適したスタディープログラムに切り替えた。スタディープログラムでは、スマートフォンやパソコンで各学習項目についての5分程度の学習動画を見ることができる。生徒は年3回の学力診断テストを受験して自分の弱点分野を把握し、その分野の動画や自習教材をスマートフォンやパソコンで視聴して自学を進めた。また、生徒全体が苦手とする分野については、授業で扱い学力向上を図った。

一方、リクルートのスタディサプリは、スマートフォンやパソコンでの講座の視聴が中心である。講座内容は中学校の内容の振り返りから難関受験対策まで多様であり、その中から自分に適した講座を選び好きな時間に自学する。本校では、平成26年度(2014)より、それまでの代々木ゼミナールのCS講座に替えてスタディサプリを導入した。導入初年度は、家庭学習で使用する自習用教材という位置づけで一部の希望者に受講させ、翌年度からは2年生を対象に広く受講希望者を募り、特にZコースの生徒には強く受講を勧めた。Zコースでの授業後演習で利用するためである。個人の関心や弱点克服の分野とレベルが合致した生徒は特に意欲的に自学を進めた。また、例年3年生の10月頃より一般入試対策として、生徒がスタディサプリの自学に熱心に取り組み学力を向上させている。

(4)保健室・相談室から見た生徒の変化とその対応

「保健室・養護教諭」

グローバル化や情報化など社会が大きく変化し、生徒を取り巻く環境も多様化・複雑化している。従来の健康診断・救急処置・学校環境衛生といった養護教諭の業務も多様化している。アレルギー疾患・感染症・重度の基礎疾患・医療ケアといった身体面に加え、虐待・いじめ・自死・性の多様性・発達障害などの心の問題への対応も重要な業務となっている。

業務の多様化は、医療機関との連携はもちろん、保護者・教職員・スクールカウンセラーとの密接な連携の必要性を高めた。一方で、人権の尊重・プライバシーの保護を堅持した上での緊急時の対応を含めた特別な配慮や個別の支援も求められてきている。

そうした状況の中、より的確な対策を実行できる力を向上させるため、養護教諭の専門性に基づいた支援や学内外のコーディネーターとしての役割を担うなど、学校保健活動のセンター的役割を果たす保健室経営の一層の充実が求められる。

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「相談室・相談係・スクールカウンセラー」

この10年間の社会の変化、特に社会不安や不況、コミュニケーションツールの変化などは、多感な高校生の心の成長に大きく影響を及ぼし、学校においてもいじめの防止・虐待の防止・不登校生徒への支援・特別支援教育の推進など、課題は年々多くなっている。

相談係は、相談室を利用する生徒への対応、生徒・保護者・教職員からのさまざまな相談、カウンセリングの受付などを行う。相談室の利用件数は年々増加し、相談内容もより専門的な対応を必要とするケースが増えてきた。毎週、スクールカウンセラー・養護教諭・相談係・該当生徒の担任・クラブ顧問を交えて対応を協議している。

具体的な取り組みとして次の項目を挙げておく。

・ 教室に入れない生徒への支援。

・ 発達障害の生徒への理解を深めるためのスクールカウンセラーを講師とした研修会の実施。

・ 子どもへの対応に関する保護者の相談。

・ 虐待(教育虐待も含む)が疑われる生徒に関する保護者への助言・カウンセリングの斡旋。

・ 家庭訪問の同行や生徒との面談の同席。

こうした取り組みを通して、実は色覚異常や聴覚過敏・難聴やゲーム依存などの問題が隠れていることがわかり、教科担当者や学習指導部に配慮を求めたり、カウンセリングを受けるなどして解決に至ることがあった。

この10年での生徒実態の変化や相談室の取り組みを次に挙げておく

・ 平成24年 昼食時に一人で過ごすことを苦痛に感じる生徒の昼食時のみ相談室利用。

・ 平成26年 SNS利用によるストーカーやデートDV被害。

・ 平成27年 いじめアンケートの実施に伴う「いじめ対策委員会」の設置。(定期実施)

・ 令和2年 コロナ禍のストレスによる相談件数・カウンセリング件数が増加。

(5)新型コロナウイルス感染症対策(中間総括)

令和2年(2020)3月の休校処置以降、現在まで行ってきた感染防止対策の中間報告である。

【休校期間】

学校再開に備え、各教室・職員室・生徒出入口等に手指消毒用スプレーを配置。清掃時には机・椅子等の消毒(拭き掃除)にも用いることとした。また、それに伴う物品の手配に追われた。

授業の遅れをできるだけ解消するためにMicrosoft Teamsを利用した「課題等の配信」「短時間の授業の配信」を行う一方で、リモート授業への積極的な取り組みも検討を繰り返し、一部実用化した。また、夏休み等を短縮し、通常授業日に充てるなど、学習の遅れを招かぬよう工夫をした。

来校者への検温・手指消毒・記名をお願いし、外部との接触を管理。現在も継続している。

【分散登校・時差登校】

学校再開は、クラスを2分した分散登校から始まった。感染状況の変化に伴い、時差登校や学級閉鎖・部活別自宅待機など、私学振興室・保健所をはじめとした公的機関による指導に基づき、適宜実施した。特に昼食時に重点を置き、食堂閉鎖・テイクアウトのみの利用、教室での黙食の徹底に心がけた。具体的には、教室への担任配置・校内巡回・放送による注意喚起である。

【行事】

3密を避けるため、原則集会はすべて教室内でのTV放送とした。入学式・卒業式などは当該生徒のみ体育館に入場させ、保護者は教室(座席の2分の1使用)でのTV中継で実施。若鮎祭の中止、体育祭・文化祭の縮小など大きな影響を受けた。中でも修学旅行の中止は大きな代償であった。

【本校生徒・教職員の感染者・濃厚接触者数】

令和2年度(2020) ・感染者13名 ・濃厚接触者43名

令和3年度(2021) ・感染者42名 ・濃厚接触者100名(10月末まで)

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(6)夏山合宿総括

【「上高地キャンプ」から男子高時代の夏山合宿】

本校の「夏山合宿」は、昭和45年度(1970)から始まった。この年は、大阪万博が開催されており、3年生対象に「万博の見学」「就職希望者の工場見学」「上高地キャンプ」「登校自習」の選択による臨時の特別教育活動がきっかけであった。

第1回目の「上高地キャンプ」の参加生徒は希望者113人・引率教員12人、徳沢をベースキャンプとして、涸沢と蝶ケ岳へのコースであり、時期は7月13日から16日まで、3泊4日であった。翌年の昭和46年度(1971)より、3年生は原則として全員参加の「夏山合宿」がスタートした。当時の鈴木修学校長の「学校教育において、『やらねばならぬこと』はどこの学校でもやっているが、『やった方がよいこと』は言うは易くて行うは難い。登山のような危険や苦痛を伴う場合はなおさらである。しかし安全第一ばかりを考えていては、本当の教育ができるであろうか。」という見解をもとに、全教職員の一致協力で実施された。以来、男子校であった平成10年度(1998)までの31年間、本校の伝統行事として続けられた。

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本校への入学者が増えるに従い、昭和61年度(1986)には参加生徒数が644人(3年生在籍759人)となり、引率教員も52人となった。登山経験を積んだ本校教員も増え、参加生徒が増えるにしたがいコースも生徒の体力等に合わせて5コースが設定された。いずれも徳沢をベースキャンプとし、1泊は山小屋泊まりとして5泊6日の本格的な行事となった。A・Bコースは奥穂高岳、Cコースは槍ヶ岳、Dコースは常念岳と涸沢、Eコースは蝶ケ岳泊と涸沢、Fコースは涸沢泊と蝶ケ岳、Gコースは散策と蝶ケ岳泊であり、A・B・Cコースは日帰りで蝶ケ岳への登山活動であった。

期間は例年、梅雨明け前の7月中旬に実施した。梅雨明け後には夏山シーズンとなり、一般の登山客に迷惑をかけるため、また、山小屋が混雑をするためでもあった。梅雨末期の豪雨のために、8月下旬に実施したこともあり、大雨により蝶ケ岳への日帰り登山ができない年もあった。

生徒を北アルプスの高峰に引率するためには教員の登山訓練が必要である。そのため、残雪の多い7月上旬、第1学期の期末考査中に6泊7日、下検分として20数人で登山訓練を行った。徳沢園から蝶ケ岳・常念岳・大天井岳・西岳・東鎌尾根から槍ヶ岳と3泊4日の縦走をしたこともあった。また、槍ヶ岳から大キレットを通過し北穂高岳、涸沢岳から奥穂高岳への縦走と、大学や社会人の登山部などが実施する登山活動を行った。この1週間の下検分には、新任教員、若手教員から中堅教員が参加し、この期間が城西の教員になるための現職教育の場でもあった。このほかに、昭和56年度(1981)から、長野県山岳総合センター主催の「学校集団登山引率者等研修会」にも数人の教員が9年間参加する中で、本校の教員は山の経験を積んでいったものである。

【共学後の希望制での夏山合宿】

平成11年度(1999)に共学になり女子生徒が3年生になった年、平成13年度(2001)第32回の夏山合宿以降は希望制にして実施した。テント泊から風呂にも入れる「徳沢園」泊とし、期間も3泊4日とした。しかし、希望制にしたことで、参加生徒の募集には毎年苦労した。夏山合宿は、「建学の精神を体得するための城西教育の集大成である」として3年生を募集対象としてきたが、思うようには参加数が増えなかった。そこで、登山体験の中で「己に克つ」の精神を1・2年生のうちに体得し、その後の高校生活に活かせるようにと下級生にも対象を広げて参加を募るようにもした。

平成21年度(2009)までは、第3学年の主任及び3年の担任・クラブ顧問のおかげで、参加生徒が3コースを選んでの登山活動が何とか実施できた。しかしながら、翌年の平成22年度(2010)以降は参加生徒数が減少し、登山コースを限定しての実施とせざるを得なくなった。

参加生徒減の要因の一つとしては、共学化以降、部活動がより一層盛んになり、全国総体に出場する部活が増え、若くて元気のある教員は運動部の顧問であり、生徒も顧問も夏休みは部活動優先の傾向となったことがある。また、進路指導として進学志望者への夏休みの演習の強化、オープンキャンパスへの義務化なども考えられる。そして、参加生徒減によってコースが限定されたことで、自分の体力にあわせたコース選択ができなくなったことも要因である。

こうした状況の中で、登山経験豊富な引率教員の高齢化や生徒の気質の変化などから、参加生徒の安全性を確保できないとして、本校の伝統行事である夏山合宿は、平成31年度(2019)第50回を最後とすることにした。

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【夏山合宿総括】

昭和45年度(1970)から始まり、50年間続いた本校の夏山合宿は、集団登山としての人数、しかも3,000メートル級の山への登山という点で全国に例を見ないものであった。

本校は私学である。私学には創設者の思い、「建学の精神」がある。本校の夏山合宿には、建学の精神を体得できるすべての要素が詰まっている。テント生活(山小屋泊)をしながら、一日6時間以上一歩ずつ一歩ずつ歩く。雪渓の上を、急峻な岩場や断崖絶壁を慎重に登る。そして、たどり着いた山頂での満足感・達成感。まさに、夏山合宿は、「質実剛健・己れに克つ・勇気と努力をもって困難に立ち向かう剛毅闊達」な人間の育成の場である。山から帰った生徒の顔は自信に満ち、1回りも2回りも成長していたものである。生徒も教員も同じ釜の飯を食べ、同じ行動体験をする本校の夏山合宿には絶大な教育的効果があった。ゆえに、本校の卒業生同士の絆は深く、恩師とは深い繋がりができている。

こうした本校の伝統行事である「夏山合宿」が大きな事故もなく実施できてきたことは、創立以来の本校の全教職員が「建学の精神」のもとに、公立はもちろん、他の私学に負けない1味違う「城西」にしようという強い思いと努力のおかげであると感謝を申し上げ、夏山の総括とする。

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