本学園幼稚園の特色は才能教育である。それは、各自のもつ潜在能力の発芽を促進し、その可能性を伸ばしていく為に、多角的な環境づくりをすることである。子供をとりまく環境づくりの一つとして、重要なものは、まず「ことば」である。教育の場は、「ことば」が、コミュニケーションの手段となり、よい教育もそうでない教育も展開されることになる。教材研究が、いかに、十分になされ、内容が充実したものであっても、教師の不用意な「ことば」によっては、幼な心は傷つけられ、子供の可能性は、はばまれることになる。
「ことば」のもつ、こうした魔力とも思われる点に、周到に留意して、子供が、自然に、のびのびと、積極的な行動によって、自己表現をしたり、潜在している才能が発芽するように保育を行っている。このことは、単に、教師だけでなく、子供をとりまく多くの人たち、就中、家族が、「ことば」のもつ神秘さを知覚し、「ことば」のつかいかたによって、側面的な才能教育に心がけなければならない。後述してある「ファミリースクール」は親を対象としての教育の場であり、子供の才能を開発していくための重要な役割を果しているのである。才能教育をすすめていく上に、困難と思われることは、子供のもつ潜在能力がいかなるものか、どの方面に発芽するものかが、全く、不明であることである。
教師は、自己に課された任務が、発芽に必要な条件を子供に与えること以外にないとの認識に立って、自らが、時には、さんさんと光り輝く太陽となり、時には、しっとりと、大地にしみこむ慈雨となり、時には豊沃な土壌となって、種子をやわらかに包みこむようにしなければならない。
才能教育に、必要な環境づくりを、ここに、全部あげることは到底不可能であるので、その一端を左に記すことにしたい。
○ミュージックラボ教育
ミュージックラボ教室を、47年5月より開設し、年長児全部を対象として、音感教育を行なうとともに、情操を培っている。12台のエレクトン子機と1台の親機を設置し、一斉指導のかたわら、個別指導が随時可能であるから、音楽的に劣っている場合でも、劣等感をいだくことなく学習することができる。個別指導により、間違いを発見し、正していくシステムなので、積極性を養い、園児には、興味深いものとなって教育効果をあげている。
○バイリンガル教育
科学の進歩による時間と空間の短縮と、暮しの国際化現象を考えると、これからの幼児にとって、会話力の重要性が、まず第一にあげられる。
そもそも、幼児の「ことば」は「環境からくることば」のリピートから生まれる。
各国の幼児の第一声が、その国の「ことば」である事実をみても、誠に驚くべき才能(能力)といわざるを得ない。即ち母親の日常の「ことば」が、未だものが言えない幼児の脳裡に日々蓄積され発達して第一声となるものと思われる。生後の「ことば」の発達も同様であることにかんがみ、自国語に止まらず他国語(英語)もあわせて、日常生活に取り入れていくことにした。
遊びや保育の中で、日本語、英語の二国語を自由自在に話すこのバイリンガル教育はこれからの幼児に必須のものといわざるを得ない。その為にイングリッシュラボ器を使用したり、外人講師による生の英会話や、ジンジン英会話等を保育中に取り入れている。
○漢字あそび
子供は直感力が鋭いので、象形文字である漢字の意味するものを、いち早く感知し、興味をもちながら読解力を深めている。
園独自の「手づくり絵本」により、3歳~5歳の園児に漢字あそびの効果をあげている。これが、ひいては知能のアップという結果をもまねいているのである。卒園後の追跡調査により、それが明らかにされている。
漢字あそびは、あくまでも読み書き分離教育であることを付記する。
○らくがきコーナー
園内のらくがき板は、幼児間の人間関係を豊かにし、創造性を伸ばし、進取の気性を培い育てるもので大いに活用している。朝早く来た子供が、ひとりごとをいいながら書いている。そのうちに、2人、3人と友だちがやって来て、同じように、ひとりごとをいいながら書くが、次第に、子供同士の会話にかわり、会話が絵となって発展していくのである。1時間もたたないうちに、らくがき板は、いっぱいになり、そこに、物語や将来の夢が展開されていくのである。こうした風景は、毎日のように見られるのである。一人で絵をかくことを躊躇する消極的な子供も、こうした雰囲気の中では、自然に、クレパスを動かすようになり、才能の芽も開発されていくようである。
○お菓子づくり
幼児は粘土あそびに夢中で、つくってはこわし、こわしてはつくり、いろいろの造形活動を楽しんでいる。
月に1回、この粘土をメリケン粉にかえてクッキーづくりをしている。食べものであるから、清潔に作業する習慣を教え、象、うさぎ、花など思い思いの造形をたのしみ、オーブンで焼いている。このクッキーで、お客さんごっこをして食べるのであるが、その時子供なりのエチケットも忘れないで教えている。子供にとっては、興味しんしんの、ひとときである。
○ユニークなクラス名
大学附属幼稚園、短大附属幼稚園では、太陽、地球、宇宙、月、星、ロケット等の天体に関するクラス名に、また日本海、太平洋、東海道、富士山、桜と、子供たちを取りまく日本という環境をクラス名にしている。
桜井幼稚園では、遊ぶ(playing room)、話す(telling room)、創る(creating room)、視る(looking room)、聴く(hearing room)、閃く(sparking room)の述語をクラス名にし、子供たちの精神面及び行動面に積極性を、培うように配慮している。
○裸教育
健康第一をモットーに、年間を通じて、薄着や裸を奨励している。子供の体温は大人より、やや高く、春夏からの裸生活は、冬期になっても継続できる皮膚になっている。裸教育による皮膚の鍛練は、病弱な子供をも健康にしている。なお、日光照射により、皮膚下にビタミンDを、ひいては骨格の強靭化という結果を得ている。
なお、足心の青竹ふみを毎朝行っている。
○ファミリースクール
幼児の教育は、親の教育的理念に影響をうける点が大きいので、親を対象に、ファミリースクールを開設し、年7、8回のゼミナールをもって、親の学習、研修の場としている。実施状況の一端を左記する。
ファミリースクール理事長、文学博士 波多野勤子 「幼児のしつけ」
大妻女子大学教授 平井信義 「幼児の心とからだ」
中精神病院長 中脩三 「脳髄の発達と幼児教育」
医学博士 ドクトルチエコ 「幼児の性教育」
お茶の水女子大学教授 西崎嘉太郎 「幼児の遊びとうた」
竹腰美代子研究所 北条和子 「みんなで楽しく」
日本体育大学教授 小林ツヤエ 「リズムにのって」
全国選挙管理委員長・家裁調停委員 大浜英子 「妻の法律」
○1泊2日のキャンプ生活
夏期休暇中の一日を親からはなれて、キャンプ生活を体験させることにしている。年長児を対象として、園児10人に教師一人がついてグループをつくり、園庭に、テントを張り、それぞれのグループが一つのホームとなって生活を共にするのである。親から離れての1泊2日の生活は、子供にとって、またとない自主独立の機会である。自分のことは、すべて自分で始末しなければならない。
みんなと協力してする仕事も多い。炊飯の面白さも味わう。浴衣を着ての盆踊りや、教師の手づくりによる自然の遊びが、いっぱい用意されている。盛り沢山のスケジュールで、子供たちが打ち興ずるサマーキャンプは、卒園後も忘れ得ぬたのしい思い出となっている。
○手づくり絵本「壁画物語」
「壁画物語」は教師たちが創作したものを才能開発研究所で編集、監修した絵本で、専ら幼児の潜在能力の開発に資する為のものである。教師は、クラスの壁面いっぱいに、園児の参加を得て絵をかき、子供たちに話し聞かせるのである。
壁面の物語は6領域に亘り、1ケ月毎にかわるので、子供たちの環境は、いつも変化と斬新さに溢れ、才能開発に一役かっている。また、学園の建学の精神である「真心・努力・奉仕・感謝」の4つの柱が「物語」の中に一貫して流れているので、子供たちの心に豊かないぶきを吹きこんでいる。昭和50年の創巻号より現在まで第14巻に至っている。
主なる物語をあげると
仲よしぼくらのハイキング。かにの家さがし。ある夜のできごと。
空を飛んだライオン君。蛇がおこるとき。人参のふくしゅう。化けそこなった狸。
破れたパンツ。鼻ちょうちんの悲劇。お尻にひかれたパパ。なまずと地震。
笑ったお地ぞうさま。デベソの国。星を食べた女の子。白きつねのおしえ。
だんまりムッくんが笑った。さかだち村。もじゃもじゃ頭のお姫様。あっかんべー。