中学校の下級生から小学校５・６年に至るまで、学徒動員の名のもとに一斉に軍需工場にかり出されたのは、大東亜戦争がかなり苛烈になった昭和１９年秋頃からのことであった。大平洋戦争に突入した昭和１６・１７年頃は、農繁期に応召家族留守宅での麦刈り、稲刈りなどの手伝い程度で学業には大した影響はなかった。

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ところが戦局は日に日に険悪化して、昭和１８年６月政府は学徒戦時動員体制確立要綱を決定し、女子の動員を強化し、１２月には徴兵年令１年引下げによって学徒兵が入営した。本校が国民勤労報国協力令によって出動した件数はつぎのとおりである。

昭和１９年４月　大同製鋼　女職本科家政部
昭和１９年７月５日　大日本兵器幸田工場　女専被服科３年９名　２年４０名
昭和１９年９月１３日　大日本兵器幸田工場　女専被服科１年４５名
昭和１９年６月１日　中央発条鳴海支所　女専別科２年５０名　女専保健科１年３１名

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食糧不足、物資欠乏に耐えながら「神風特攻隊」と染めた白鉢巻にもんぺ姿で、また南京袋に似たカーキ色の上衣と作業ズボンの衣服を身につけた女子学徒は、各工場において汗と油にまみれて黙々と仕事に励んだ。工員と学徒の生産競争などしたが、学徒であるにもかかわらず、工員の人達に勝つという有様であった。このような時、故だい先生は時々工場へ見舞われ激励の言葉をかけられた。歌人村田せい子（昭和１８年１２月職業本科師範部卒）さんは、この当時、大日本兵器幸田工場へ動員された女専の生徒とともに挺身隊員として同工場で働いた追憶をつぎのように詠んでいる（村田せい子歌集『海鳴り』昭和４７年８月刊）。

灰色の思春期飛ばぬ飛行機を作らされたることも思えり
薄れゆく記憶の中の一つにてフライス盤に鉄を削りぬ
このようにして生徒達は、軍需工場で爆撃を受けつつ頑張り通したが、戦争はいよいよ激しくなり、国民は知らぬ間に敗戦へと導かれて行った。

真鍋美佐子
（女専昭和２０年９月卒業）

昭和１９年７月５日８時、入学以来１年半住みなれた淑範寮や校門を後に、学徒報国隊員として出動した。県下額田郡幸田町にあった大日本兵器幸田工場（現在、三菱レイヨン幸田工場）へ、不安と緊張の中を専門学校本科２・３学年の約５０人が入所した。まず１週間にわたる特別訓練で、工場規則に従った言語・動作についてこまごまとした注意があり、そのときの「敬礼」実習の恥かしかったことは、今はなつかしい想い出となった。
ここでは２２ミリの旋回機銃を作っていたが、フライス盤、旋盤、検査場、事務部の各々に学徒は配属され、本格的な作業が開始された。私達はこれまで学校という特別な環境の中でのみ過してきたが、急に社会の大海に放り出されたも同然で、毎日の辛さは筆に表わすことはむずかしい。こうした生活のうちで唯一の楽しみは食事時間で勇んで食堂前に行列し、米の中にぱらぱらと大豆の入った丼とおかずの皿を受取り、各自のテーブルで友人と語り合いながら過すひと時であった。午後４時に一日の作業を終えて食事、風呂をすませ７時から寮の薄暗い廊下を教室代りに毎日約２時間ずつ講義が行われた。そして教官はその都度工場へ出張された。
こうして昼は学徒、夜は学生としての努力を続けた。当時の服装は、防空色で南京袋のような粗いざらざらした手ざわりの布の二部式作業服、頭には赤色の縁とりをした学徒用の戦闘帽に身をかためていた。上司に会えば停止、挙手の礼、すべてが軍国調そのものであったのである。
その後奈良中学、奈良師範、岡崎師範、名大と学徒が続々と入所し、私達は遠藤航空長官より贈られた、日の丸に必勝の鉢巻をして真剣に働いた。

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楽しい想い出は初月給を手にして喜んだ時のこと。それは寮費、食費などを差引いた残金の５０円であった。また休憩時間に池の端で思いきりコーラスをしたことも楽しい思い出の一つである。
２０年６月９日、愛知時計の空襲には、別科の人達の動員先である鳴海の中央発条の事を思い胸を痛めた。
７月２０日の岡崎市空襲は一旦解除になった後の警報のため寝入りばなをおそわれた。私達は先ず蚊帳の吊り手を切り、足で踏みつけて残った人がないかを確め、サイレンを聞きながら照明弾の中を山の手へ逃げた。恐ろしい一夜を過した翌日からは、罹災した工場従業員のためにおにぎりを手の皮のむける程、作ったのである。

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ほどなく７月３１日をもって私達３年は動員解除で、懐かしい母校へ戻ったが僅か半月あとの８月１５日正午、当日の職員室で陛下の玉音をきき終戦を知ったが、そのときの気持ちは今も言葉にあらわせぬおもいである。
今は亡き三蔵先生、だい先生、二三子先生、らく先生の御教のかずかずは今、目の前に懐かしくめぐって想い出はつきない。

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