第3節 経営学部とコミュニティ政策学部―豊田学舎活性化の模索

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豊田学舎活性化プロジェクトの展開
豊田学舎の経営学部・コミュニティ政策学部においては、慢性的な定員割れが平成13年(2001)頃から続くようになっていた。この危機的な状況から脱するために豊田学舎の再建を目指す理事長の諮問機関として平成15年度(2003)に「豊田学舎活性化プロジェクトチーム」を立ち上げ、再建計画の策定に当たった。15回におよぶ委員会審議を経て報告書を作成し、平成16年(2004)11月に寺部曉理事長に答申した。
この報告書では、豊田学舎の安定的な募集力の回復と、老朽化した教育環境の整備を含めた4年間での豊田学舎の活性化事業としてまとめられた。この報告書を基に平成17年(2005)2月の常任理事会で約3億円の豊田学舎活性化特別予算が承認された。
このプロジェクトを実施するにあたり「豊田学舎に関する8人委員会」が設置された。そして、この委員会が、活性化計画書に基づいて事業計画を策定して事業を推進した。活性化事業の目標として、次の4点を掲げた。

①経営学部・コミュニティ政策学部の両学部入学定員300名の1.3倍にあたる390名の入学者の確保。
②退学者・除籍者を限りなくゼロにすること。
③就職希望者は必ず就職できる学生指導の徹底、就職率100パーセントの達成。
④〝教育大学〟としての教育の徹底。

この目標を達成するうえにおいて、学舎の教育環境整備を3期に分けて実施した。老朽化した教育施設の整備をするために第1期事業として校舎の改修・補修・塗装・洗浄、および視聴覚機器等の整備、学生の居場所の確保と課外活動のさらなる活性化を目指した。第2期事業としてクラブハウスの整備、サッカー場の人工芝化、野球場の改修、テニスコート・ハンドボールコートの整備、学生の憩いの場の増設などを実施した。第3期事業としてデータ・ベースの構築など教育条件の拡充に取り組んだ。
一方、募集力向上のために、広報活動にも多くのエネルギーを注いだ。本学の知名度のアップを図るとともに豊田学舎の〝知的イメージ〟を創出し、卒業後の出口イメージをより明確化して本学の教育目標を明確にして高校生から選ばれる魅力ある大学をつくることに力を注いだ。また、本学が立地する三河地方の人材を育成するという観点から三河地方の高校との関係強化などにも積極的に取り組んだ。

教職課程の設置
この豊田学舎活性化の動きの中で実現したのが、教職課程の設置であった。従来、豊田学舎には教職課程が設置されておらず、各方面から教職課程設置の要望が出されていた。そこで豊田学舎活性化プログラムの一環として、教職課程が設置された。
設置にあたっては、課程設置プロジェクトチームが組まれ、公民・商業・情報の3つの免許を取得できる課程の設置が検討された。しかし情報については専門科目が不足しており、結局は、高校教員一種公民(経営学部・コミュニティ政策学部)・同商業(経営学部)を取得することができる教職課程を設置することになった。それに伴って、あらたに教職科目担当の教員2名(教職入門・教育心理学)も採用された。
そして、平成18年(2006)4月から授業が開始された。受講者は、毎年10名から10数名であり、実際に高校で教えている卒業生もいる(ただし平成23年度からは、経営学部・コミュニティ政策学部の募集停止と現代マネジメント学部の設置により、従来の商業科は専門科目が確保できないため公民科だけとなった)。

キャリア教育の導入
豊田学舎活性化プロジェクトの目標の一つが、就職希望者は必ず就職できるような学生指導の徹底、つまり就職率100パーセントの達成であった。
豊田学舎では、就職課・就職委員会が中心となり、正規のカリキュラムとは別に3年生の秋から就職講座を開いていた。豊田学舎では内定率も良好で、いわゆるフリーター問題が表面化していたわけではないが、早くから学生が自分の将来の展望を描くことは、就職だけではなく、大学で学ぶ意欲を引き出すためにも必要であった。そこで、就職委員長の山田徹教授(経営学部)を中心に1年生から3年生までを対象に総合的、体系的にキャリア教育を行う構想が練られ、平成18年度秋セメスターから正規のカリキュラムの中にキャリア教育が組み込まれた。全国の大学の中では先進的な試みであった。
このキャリア教育は、経営学部では、夢・設計Ⅰ(1年秋)、夢・設計Ⅱ(2年春)、夢・設計Ⅲ(2年秋)、進路設計Ⅰ(3年春)、進路設計Ⅱ(3年秋)と連続するもので、このうち夢・設計は必須科目であった。導入にあたっては経営学部とコミュニティ政策学部のあいだに若干問題意識の差があり、やや混乱したが、コミュニティ政策学部では、キャリア開発講座1(1年秋)、キャリア開発講座2(2年通年)、キャリア開発講座3(3年通年)で選択科目であった。講義は両学部共通で行われた。
豊田学舎のキャリア教育は、狭義の就職教育だけに特化したものではなかった。1年生では、それまでの自分の生き方・あり方を意識化し、将来を考えはじめることをねらった。2年生ではそれを発展させ、3年生になると実践的な就職指導が行われた。また、一方的な授業ではなく、書くことや発言したりすること、またディスカッションをすること等を重視した。こうしたキャリア教育の理念はその後の現代マネジメント学部のキャリア教育に受け継がれていく。

コミュニティ政策学部開設10周年記念行事の開催
平成10年(1998)4月に発足したコミュニティ政策学部は、20年(2008)に開設10周年を迎えた。そこでコミュニティ政策学部は、それを記念するとともにあらたな展望を見いだすため、三河地域の市民、とりわけ次代を担う人たち(高校生・中学生)を主な対象として平成20年8月2日、豊田学舎において「まちフェスタ in みかわ」を開催した。メインコンセプトは、コミュニティ政策学部の学部理念にふさわしい「まちを 守る 創る 楽しむ」というものであった。
開催には、学部全教員がほぼ毎週、企画会議を軸にプログラムの検討、講師の選任、広告・広報先の検討等を精力的に推し進めた。また同時に学生の組織的かつ主体的な取組みを促すべく、日々の講義や演習の中で、イベントを開催することの意義とその有用性の理解に向けた働きかけを行った。まちづくりは、机上の論だけでなく、実践してこそ意味があるということを体験・体得するシステムづくりに注力した。その結果、当日は、同時に開かれたオープンキャンパスからの参加者もあり、地元逢妻地区の住民150名をはじめ合計723名の参加者を数え、盛況となった。

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社会人基礎力育成プログラムの実践
家政学部にやや遅れて、豊田学舎でも平成20年度から社会人基礎力育成プログラムが本格的に展開されることになった。その導入にあたっては、全学的に社会人基礎力推進委員会が設置され、豊田学舎からも委員が選任された。
社会人基礎力育成には、課題解決型学習(PBL)の手法が取り入れられた。そのため当初は、一般の講義ではなく、よりPBLの手法が取り入れやすい、企業・地方自治団体・地域との共同事業というかたちで行われた。平成20年度は、全体に導入するためのパイロット的な4つのチームがつくられた。スーパーヤマトの営業改善策(経営学部城田吉孝教授チーム)、安城市「まちの教室」と小売店の繁盛店づくり(同浦上拓也教授チーム)、安城七夕まつりへの企画段階からの参加(コミュニティ政策学部谷口功准教授チーム)、豊田市逢妻地域での交通安全対策(同3村聡教授チーム)であった。
また、平成21年度(2009)からは、すべての科目において社会人基礎力を養成することになった。そのため、シラバスには目標とすべき12の行動特性のうち重点的な目標とする行動特性を明記することになった。同時に、通常科目において学生の社会人基礎力を発揮する場面をつくることになった。
全体の流れは次のようなものであった。まず1年生においては、社会人基礎力とは何かを説明し、学生に対する意識づけを行う導入的な時間が置かれた。経営学部は「経済入門」の中で、コミュニティ政策学部では「コミュニティ政策入門」の中で、学外講師の講義を聴くというかたちで行われた。また2年生は各演習を中心に社会人基礎力養成が行われた。さらに3年次には、学生のもつ社会人基礎力に対する外部評価が行われた。これは、学生全員が12の行動特性についての「自己評価シート」を書き、それをもとに外部の評価委員(企業の人事担当者、キャリアカウンセラーなど)を委嘱して行うというものである。経営学部においては専門演習が、コミュニティ政策学部においてはコミュニティ運営実習が、社会人基礎力を養成する基本的な場とされ、この外部評価も演習・実習ごとに行われてきた。
平成22年(2010)9月に行われた経済産業省主催社会人基礎力育成事例研究セミナーにおいて、村林聖子准教授(名古屋)と谷口功准教授(広島)がコミュニティ政策学部の実践を発表したこと、また同年12月1日に行われた社会人基礎力グランプリ中部大会(名古屋市、中小企業センター)には豊田学舎からコミュニティ政策学部3村ゼミ(4年生長坂恵理・石神 征)が参加して奨励賞をえたことも記憶すべき動きであった。

産学連携・官学連携
この間、豊田学舎として力を入れた事業として産学連携・官学連携があった。それは、現在の大学が取り組むべき社会的な責務であったからである。
平成17年度には、まちづくり委員会が豊田市と共催でシンポジウム「都市内分権と共働のあり方」を豊田市市民活動センターにおいて開催した。豊田市は、同年いわゆる「平成の大合併」に伴い広域化した市域にあって、格差の少ないまちづくりを推進するために、「豊田市まちづくり基本条例」(平成17年10月1日施行)を制定した。加えて市民が地域の自治に参加していく根拠として、「豊田市地域自治区条例」(同前)を策定した。これらの条例策定にコミュニティ政策学部の山崎丈夫教授が深くかかわったことから、さまざまな機会を通して豊田市との連携が展開されていくことになった。

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翌平成18年度、コミュニティ政策研究所・豊田まちづくり委員会・豊田市小原支所3者の共催で、豊田市小原地区(旧小原村)のまちづくりの活性化を目指す「小原まちづくり2007」を開催した。また19年度(2007)は、足助地区・小原地区・稲武地区にて調査および意見交換を行った。また、これとは別に大学の地域における社会貢献活動を目的として、豊田市民を対象に「豊田市まちづくり懸賞エッセイ2007」の募集を行った。豊田地域を対象に地域SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)サイトを運営する地元NPOと共催し、最新のインターネット技術や携帯電話を活用した応募方法も採用した。また豊田市・豊田商工会議所・財団法人豊田都市交通研究所・トヨタ自動車株式会社・豊田信用金庫・中日新聞社から後援を得て、産・官・学・NPOの連携体制をとることができた。
以上のように産学連携・官学連携が本格的に展開し、前頁の表のように平成21年度時点では、多彩な産学連携・官学連携等の活動が展開していた。

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無限の可能性教育プログラムと特別奨学金
前述の社会人基礎力育成プログラムは、さまざまのかたちで展開していった。平成22年度からは豊田学舎の2学部において、「無限の可能性」奨学金制度がスタートした。
この制度は社会人基礎力育成の一環として設けられたものであり、通常の奨学金とはかなり内容を異にしている。前提条件は、①年間2~3回の「振り返り自己評価の実施」、②年間5~6回のオフィスアワーへの出席、③すべての履修科目においての総講義回数の3分の2以上の出席(要するに無資格科目がないこと)、④年間32単位以上の取得(1年次審査では半年で16単位以上)の4点である。これを満たしたうえで、①授業等における教員の補助や学校行事等におけるアシスト、②大学公認の課外活動、③本制度対象学生向けのプログラム参加、④資格・検定の取得・合格、⑤産学・官学連携PBLへの参加等の項目に取り組んだものに奨学金が与えられる。要するに主体的に大学生活に取り組み、充実した大学生活を送る学生を育てようという意図に基づくものである。またそうした学生の中から学舎全体のリーダー的学生を育成することも意図している。
支給実績を見ると、平成22~24年度(2012)の3年間とも入学時点ではほぼ100名弱のエントリーがあった。そして半年後(1年次奨学金審査)には60名強が適格、1年後(2年次奨学金審査)には40名強が適格となっている。奨学金の額は1年次については一律28万円(評価対象期間は入学後から半年間)、2~4年次については3段階(A=28万円、B=14万円、C=7万円、評価対象期間は前年度の1年間)に分かれている。
学生の活動は、通常考えられる学内での活動(学生会・クラブ・サークル等)以外に、社会人講座補助、地域行事(祭り・スポーツイベント・音楽会・清掃活動等々)へのスタッフとしての参加、海外ボランティア等々、かなり幅広く行なわれており、Aランク学生が約半数を占めるなど、制度の効果がうかがえる状況にある。

現代マネジメント学部の発足
前述のように、豊田学舎では平成17年度から豊田学舎活性化プロジェクトを推進してきた。しかし、その効果が表れるべき平成18年度~21年度の各年度にプロジェクト目標とした入学者の300名以上の確保は達成できなかった。そのため豊田学舎の2学部体制は限界にきていると認識され、大幅な改組の必要性が緊急な課題として理事会で議論されることになった。豊田学舎の存続をかけたこの活性化事業は、2学部体制の豊田学舎を1学部体制へと再編する学部改組事業に大きく舵を取ることになった。
この結果、豊田学舎は平成23年(2011)から現代マネジメント学部現代マネジメント学科の1学部体制で再出発することになった。
豊田学舎における新学部発足への動きが顕在化するのは、平成19年(2007)11月のことであった。すなわち、それまでの豊田学舎活性化プロジェクトの進展状況を踏まえた「リスク管理案」というかたちで、寺部曉理事長より既存2学部合同運営員会にて提示されたのである。このリスク管理案は、一方では既存の学部の維持を図りながらも、他方では既存の学部の改組転換の可能性を示唆するものであった。そして、「プロジェクトA」「プロジェクトB」という2つのプロジェクトを並行して展開するなかで新しい学部の可能性も模索されていった。
プロジェクトAとは、既存の2学部を改革することで募集定員確保を目指すものであり、従来の方向の延長線上にあるものであった。一方、プロジェクトBとは、既存の2学部体制を融合して新しい1学部を構想するものであった。
平成19年12月21日、新学部を構想するプロジェクトBは最初の会議を開催した。その後プロジェクトB会議では、学部名称、学科・専攻の構成、募集定員、教育プログラムの考え方・カリキュラムなどを検討し、翌平成20年9月24日の経営学部・コミュニティ政策学部両学部合同教授会で、検討内容が説明された。そしてこの教授会の後、多くの意見が寄せられることとなり、これを受けてプロジェクトB会議は新学部名称を「現代マネジメント学部」とすること、この年の11月までに定員充足の見通しが立たなかった場合、プロジェクトB案を以って改組を行い、平成22年度の新学部開設を目指すという方針を確認した。
学部の名称については、現代社会においてマネジメントが企業経営だけに必要なものではなくて、自治体においても、NPOにおいても、個人のレベルにおいても、より良く生きていくために必須のものとなっていることを受けて、「現代マネジメント」としたのである。
さて、既存の2学部の定員確保の見通しが立たず、プロジェクトAの方向は消え、11月になって理事会は、平成22年度より1学部とする決定を行った。しかし、その後、2学部を1学部に融合するに際して、学士力を中核として基礎学力と専門知識・技術と社会人基礎力が身につくカリキュラム、学ぶ歓びを経験できるカリキュラム、複数のPBLを通して学生が社会や企業と問題解決を実体験できるカリキュラムを作成することが確認されたことを受け、平成21年1月9日、新学部の開設を平成23年度とすることを理事会として決定した(新学部定員が200名とされたのも同日理事会でのことである)。
その後、新学部開設の準備は豊田学舎改組委員会に引き継がれ、同委員会は、文部科学省との相談・折衝を繰り返しながら、学部の設置趣旨、育成する人材像、学位の名称、カリキュラム等を検討することとなった。カリキュラムについては、別にカリキュラム部会が発足し、連日深夜まで検討が行われ、原案が改組委員会に提案された。
また、新学部名称についても再度検討されることとなったが、平成21年10月20日の改組委員会は、新学部名称案を、「現代マネジメント学部」とし、加えて社会人基礎力を核にした学士教育プログラムを中心に据えることを再度決定した。
これらの案は、平成22年1月27の両学部合同教授会にて提案され、さらに詳細な修正が加えられた後、4月28日に文部科学省への届出申請が行われた。
その後、学部としては、既存2学部を募集停止し、新学部発足への移行スキームを作り上げるため、チーム「GM(現代マネジメント)の明日」を発足。移行のための問題点を解決すべく部会形式で検討、新学部発足の準備を進めた。そして、平成23年4月2日、入学式が挙行され、現代マネジメント学部はその第1期生を迎え入れることとなった。高橋真教授が初代学部長となった。

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