第6節 戦時色強まる

※しおりを追加すると、このページがしおりページに保存されます

昭和11年の2・26事件以後軍部の支配力が強化され、翌年の日華事変を発端に日本の大陸進出がすすむにつれて戦線が拡大されていった。この動きは日本全土を臨戦体制に巻き込み本校の教育も、その影響下に置かれることになった。昭和12年4月職業学校本科家政部に入学し、同16年引き続いて専門学校別科に学び、同18年3月卒業した柵木芳枝さんは、その当時の模様をつぎのように回想している。

日支事変勃発とともに学校生活に少しずつ変化が現われてきました。英語教育の廃止(戦国語追放)で英語を勉強する機会が全くなくなりました。教室はすべて坐式で各自工夫をこらした座ぶとんを敷いて一日中座って授業を受けました。
体育の時間は薙刀・木刀がとり入れられ太平洋戦争の始まる1年前より軍事教練が組み入れられ、退役将校を先生として、全く軍隊と同じ号令できびしく指導されました。豊橋の第15師団(歩兵部隊)へ一日入隊、小銃かついで射撃の訓練、投擲弾の投げ方なども教えられました。クラス分けもすべて軍隊と同じで、級長は分隊長と呼ばれるようになり、服装はセーラー服にモンペイ着用でした。
めったに配給されることのない運動靴も再生ゴムのためどんなに注意していても二、三日で底が折れてしまいました。ユニホームはスフで洗っても何となくうす黒く、1ケ月もしないのにいたる所小さな穴があいてしまいました。
「欲しがりません勝つまでは」の合言葉のもと、傷痍軍人の慰問や千人針の奉仕をし夏は出征軍人の家へ勤労奉仕に行き洗濯、裁縫などを手助けし、春秋には農作業も手伝いました。学校にも田圃があり全校で田植え稲刈りをしました。食糧増産のためにお芋も全校で作りました。

そのような時勢を背景にして、昭和16年9月6日専門学校に対して「学生生徒卒業期繰上げに関する」文部省通達が出された。これによって、「昭和十六年度卒業者ハ其ノ在学年限、修業年限ヲ三ケ月短縮シ昭和十六年十二月ニ卒業セシムル」ことになり、2学期中にその年度の授業を完結させ、「十二月二十六日ヨリ十二月二十八日ノ間ニ卒業式ヲ行フ」ものとされた。ただし、修業年限2年以下のものはこの適用外におかれた。さらに翌17年からは、専門学校卒業生については、9月にくり上げて卒業させることになった。
昭和15年3月、皇紀2600年を記念して、職業学校、専門学校の校友会誌として、『つみ草第1号』が発刊された。「紀元2600年を迎へての覚悟」とか「青少年学徒に賜わりたる勅語渙発記念日に際して」とかの一定のテーマで書かれた作文を軸にして、会員の文芸作品を掲載した小冊子である。

画像クリック/タップで拡大

引きつづいて昭和17年の12月には大東亜戦争1周年記念として、『つみ草皇軍慰問号』を発行した。内容は当然のことながら戦時色に彩られ、発行母体も、従来の校友会から、報国団に改められた。昭和18年の専門学校生徒心得を見ると、形どおりの「服装の心得」「通学、教室内の心得」につづいて「礼法其の他に関する心得」として「英霊室奉仕に当りては、早朝登校をなし敬虔なる感謝の誠を捧げ奉仕の任を果すべし」としている。また、「行事心得」のなかに「毎月八日を大詔奉戴記念日とし日の丸弁当持参、授業の他に神社参拝閲兵並びに分列行進を行ふ」とか、「毎月二十二日を青少年学徒に賜ハリタル勅語記念日とし日の丸弁当持参、朝会に次いで神社参拝其の他所定の行事をなす」などの規程がなされている。
戦線の拡大につれて、日増しに緊迫した戦時体制が、あらゆる分野に影響を現わしてきた。このような状況のなかで、修学旅行も昭和17年を最後に中止されたのである。
昭和15年9月11日に、政府は部落会、町内会、隣組の整備強化の方針をうち出した、国民生活の末端を地縁的に再編成し、監視と統制を強め、挙国一致体制をつくるためのものであった。このような社会的気運の中で、本校では、保護者代表鈴木与市氏を中心に、保護者会設立の準備がすすめられていた。昭和16年10月19日、午後1時より「安城女子専門学校、安城女子職業学校保護者会」の設立総会が開かれた。こうして、本校の保護者会が同月1日付で正式に発足し、初代会長に鈴木与市氏が就任した。会則の第1条には「本会は安城女子専門学校、安城女子職業学校ノ発展職員ノ向上学校ト父兄トノ親密ナル連絡ヲ計ルヲ目的トス」とある。第6条に目的達成のための事業を7項目にわたって列挙している。「一、本校発展ニ関スル後援 二、生徒成績向上ノ奨励 三、家庭訪問及懇談会 四、講演並ニ講演会ノ開催 五、本校職員ニ対スル後援」以下弔慰、その他の事項となっている。
戦時経済の波が、大陸における戦線の拡大につれて学校財政を圧迫しつつある状況の中で、学校および職員の後援を主な目的として保護者会の設立をみたといえよう。会費は、職業学校生徒の父兄月70銭、専門学校生徒の父兄月1円となっており、入学に際してはそれぞれ1円の入会金を徴収するとしていた。「家庭連絡及懇談会ニ関スル内規」には、年1回の総会、9月と2月の保護者懇談会、講演会を規定している。その3項に「本校出征軍人家族及戦病没者ノ遺族ノ家庭ニ対スル裁縫編物等ノ奉仕作業及農繁期ニ於ケル勤労奉仕作業ヲ行ヒ次ニ本校生徒ノ手不足ノ家庭ニ対シ要求ニ依リ勤労奉仕ヲナシ余力ヲ一般ノ勤労奉仕ニ出動セシム」として、女子学徒としての銃後の守りを強調している。

目次
Copyright© 2023 学校法人安城学園. All Rights Reserved.