第1節 学校5日制新カリキュラムスタート(平成4年度~6年度)

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(1)教育を量から質へ―92カリキュラムスタート―
平成4(1992)年度から学校5日制を基軸とした新カリキュラムがスタートした。寺部清毅理事長が考える「時代の流れに敏感に反応した新しい教育の創造」「大きく変化する時代に対応する教育の量から質への転換」を大きな柱に据えた教育のスタートであった。
カリキュラム改定の骨格・基軸に据えたのは次の5点であった。

1、教育を質から考える
2、学校5日制への対応
3、系列大学、短大と結びついた教育内容
4、私学らしい面白みのある特設科目の設定
5、評価・評定の改革と単位認定基準のアップ(フォロー体制の確立)

触発と自学主義をキーワードにして授業構造の改革、特設教科の充実、進路指導の充実、高大一貫教育の強化、評価・評定の改革、単位認定基準の改善・国際交流の拡大など総合的な検討が伴ってスタートした。
土曜日は「自学の日」と位置づけ、学校開放、土曜講座、公開講座、フィールドワークなど大胆に導入した。海外ホームステイや教科のセミナー旅行など教室を飛び出した学びのステージも多彩に企画し、実施した。改革運動を触発するものとして、全校生徒対象に授業改革アンケートを4年から実施した(7月)。この結果をもとに夏休み期間に教科会会議を以後、毎年実施するようになった。
4年度から修学旅行は選択メニュー方式に変わり、従来の北九州~長崎・阿蘇~に加えて、北海道、沖縄、韓国を加えた4つのコースで実施された。第1回世界史セミナーとして中国の旅を実施し、25名の生徒と南京大虐殺記念館を訪問するなど、生きた歴史を学んだ。部活動では夏目江利子が冬季インターハイ(スケート競技)に出場した。
5年度は5日制に伴う公開講座やフィールドワークが発展。2月には県下私学教員に加えて、公立教員や全国の研究者、出版関係者、生徒など1,000名が集まった授業改革フェスティバルの第1回会場校となった。部活動では陸上部の市石奈名(走り高跳び)がインターハイに出場し、石田桂(砲丸投げ)が国体で第3位に入賞した。石田桂は秋に開かれた第24回ジュニアオリンピックでも砲丸投げ競技で2位に入賞した。ハンドボール競技には平山恵が選抜メンバーに選ばれ、冬季インターハイは夏目江利子、八木さゆりの2名がスケート競技に出場した。
6年度は授業実践の取り組みが目立った年であった。「狂気の時代を生きた人達~6,000人を救った命のビザ~杉原千畝」(佐藤)、「夏の花~広島へのFW」(国語科)、「創造発表会」(国語科)、「詩集 素晴らしき愚か者」(竹野)など生徒の主体的参加と優れた感性を引き出す実践であった。
7年1月に起きた阪神・淡路大震災には生徒会が全生徒に呼びかけ、被災者の方々に義援金を送る活動に取り組んだ。国際交流の分野ではこの年から海外留学を制度化し、2名の生徒が1年間、オーストラリアに留学した(本田久美、杉江晴香)。部活動ではインターハイに陸上部の石田桂(砲丸投げ・やり投げ)・市石奈名(走り高跳び)、ソフトテニス部の橋本・鶴田(ダブルス)、山口・山崎(ダブルス)・国体へはソフト部の豊田沙織(選抜メンバー)が出場し、活躍した。
学校5日制への移行は教育改革そのものを前進させた。土曜講座、公開講座、フィールドワークなどの特設科目は生徒の主体的参加を軸にしており、その後の授業改革運動の装置の役割を果たした。そしてなによりも時代のなかの学校、授業改革、教育条件、父母や生徒の要求など学校を総合的に見直す絶好のチャンスになった。

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(2)授業構造の改革
新カリキュラム論議のなかでもっとも重視したのは「授業構造の改革」だった。生徒会活動やクラス活動・クラブ活動・ミュージカルなどの自主活動そして家庭や社会でみせる生徒の資質や賢さを授業でなぜ引き出せないのか、授業の構造から見直さないと生徒が本来持っている優れた資質や賢さに対応できないのではないか、カリキュラム論議のなかで出されたこの視点に立って、「自主活動と授業のクロス」を提起しつつ、「授業構造の改革」は92カリキュラムの中心軸として運動化されることになった。
運動の中心を担った数学科は①週1の2人コンビによる相互乗り入れの公開授業 ②考えるノートの試行 ③討論し発表する ④遊びへの解体 ⑤イメージを工作する ⑥数学通信の発行 ⑦数学フェスティバルなどを開き“数学は美しい”を実感させる、などを実践していった。

(3)新科目の挑戦
国語科では新科目「総合表現」(1年生で1単位。平成8年度より「創造」に科目名変更)という新しい学びの手法で、教師からの挑戦を試みた。教科書を使わず、自らの思考と発言、それへの級友と教師の切り返しのみで1年間、授業を行った。
ある教員は「総合表現が日常の授業を見直すきっかけになった」という。「生徒にカルチャーショックを与えるような授業を作り出したい」という国語科の思いが込められた授業が始まった。
社会科は新科目「現代に生きる人間」(各学年1単位で合計3単位。科目名は「総合講座」)で「触発と異化」を念頭において大胆に外部講師を導入する授業を始めた。
「総合講座」は「その時々の話題を主題に人間主義に立脚しながら“読み取る力”“まとめる力”“書く力”“調査する力”“発表する力”“討論する力”を育み、最終的には“積極的に社会的活動に参加していく”生徒像をイメージ」して構想されたものであり、現代的文献(新聞など)を教材としてスタートした。
英語科ではオーラルコミュニケーションの授業をカリキュラムのなかに位置づけ、英語に対する意欲を引き出し、会話力をアップする挑戦を始めた(1・2年で各1単位。合計2単位)。

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(4)土曜講座・公開講座・フィールドワーク・フィールドセミナー
平成4年4月からの新しいカリキュラムは「授業を学校の中だけでとらえるのでなく、広く社会・自然・地域とのふれあいを通し、そこからの触発を重視していこう」という視点も持っていた。そこから生まれたのが土曜講座、公開講座、フィールドワーク、フィールドセミナーの取り組みであった。そのねらいと内容は次のようなものであった。

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●ねらい
・自ら考えて学習するという「能動的学習」をできるだけ多くの生徒に体験させる。
・今までの学校内だけの学習から、学外の学習教材・人を大胆に活用し、学習意欲の触発に結びつける。
・広く社会・自然・地域に触れることで学べること、学ぶことの広がりを体験させる。
・地域の人々とできるだけ多く触れる機会をつくる。
・自分たちの住んでいる地域を意識させる。特に地元にある博物館や資料館、文化財を高校時代に見ておくことを勧める。
・学芸員の人や専門家の人と共同して新しい学習形態を作り出す。

●内容
・土曜日を利用して公開講座、フィールドワークの日を年8回設定する。
・授業と関連させてイメージを広げることのできるような内容を重視する。
・明日香セミナー(5月)、京都セミナー(10月)、開田生物セミナー(6月)は行事として毎年実施する。
・海外世界史セミナーを冬休みに5日間から8日間程度実施する。
・海外英語語学研修ホームステイを夏休みに2週間から3週間程度実施する。
・ロンドン語学研修を冬休みに8日間程度実施する。

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[フィールドワークへの取り組み]
○1年目 平成4年度
初年度なので博物館学習を中心に据えた。2学期からは社会科の総合講座を意識して「てくてくウォーク油ケ渕」「油ケ渕環境講座」など環境学習フィールドワークを加えた。
フィールドワーク 実施場所 62カ所  参加者 994名

○2年目 5年度
フィールドワークに病院実習・施設訪問などのボランティア活動を一部導入する。父母に学校の教育を理解してもらうことを目的として授業の一部を公開することをねらって「公開講座」を開始する。
フィールドワーク 実施場所 24カ所  参加者 468名
公開講座     講座数  14講座  参加者 573名(うち父母63名)

○3年目 6年度
前年度好評だったボランティア活動をフィールドワークに本格的に導入する。
フィールドワーク 実施場所 28カ所  参加者 724名
ボランティア活動 実施場所 12カ所  参加者 132名
公開講座     講座数  15講座  参加者 547名(うち父母26名)

○4年目 7年度
「フィールドワーク・公開講座を親子で」をキャッチフレーズに毎回のフィールドワークに親子で参加できそうな企画を設定する。フィールドワーク生徒企画委員を募集(33名応募)、生徒が広報紙を発行する。
フィールドワーク 実施場所 19カ所  参加者 630名(うち父母143名)
ボランティア活動 実施場所 6カ所   参加者 83名
公開講座     講座数  10講座  参加者 137名(うち父母80名)

(5)メリマック高校へのホームステイ開始
平成4年度の第2回からオーストラリア・ゴールドコースト市のメリマック・ステイト・ハイスクールでの夏のホームステイが始まった。プログラムは土・日曜日を除いて午前中は高校にて英会話の勉強をし、午後は市内へ出てのアクテビティを実施した。ホームステイ先は全員、メリマック高校の生徒宅、土・日曜日などは郊外へ家族で出かける家庭も多くあった。生徒たちは積極的に授業に参加し、現地の高校生とものおじせず、交流する光景が目立った。参加した生徒は次のような感想を述べている。
「知り合った友達に勇気を出して話し掛けたけど、帰ってきた言葉は聞きなれない発音で、今まで6年間習いつづけてきた英語なのにとまどうほどだった。それでもあきらめずに積極的に話したり、ゆっくり言葉を返してもらう事で、少しずつ耳も慣れ、会語にも笑いが混じり、初めて英会話の楽しさを知った気がした。13日間があっという間に思い出になってしまったけど、私の中でいつまでも新鮮なまま残って行くと思う。私は、もっと語学力を身につけて、知り合うことのできたホストファミリーや友達とずっと交流していきたいと思う。」

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(6)ロンドン語学研修開始
平成5年度から冬休みを利用してのイギリス・ロンドンへの語学研修が始まった。英会話実習とヨーロッパの生活体験を目的としたプログラムで、3日間のホームステイ、クリスマス体験と3日間のロンドン市内自由散策を内容とした。ロンドン市内散策は5名から7名に1名の英国人ガイドをつけるという普通では考えれない贅沢なものにした。英国人ガイドの案内で生徒たちは大英博物館や国立美術館・蝋人形館などを巡った。

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(7)オーケストラ(オータムコンサート)誕生
平成5年11月22日の創立記念日に第1回オータムコンサートを安城市民会館大ホールで開催した。吹奏楽部と弦楽部が協力したオーケストラの誕生であった。当日は合唱部も加わり、音楽科教員6名が指揮、ソリストを務めるなど総勢150名を超える大ステージとなった。

(8)校則改正
校則改正は自主活動(居場所)抜きにはただの放任につながっていく。平成2年度から始まった校則改正の作業は「自由にしても崩れない学校づくり」をテーマにして続けられた。6年1月の生徒総会では、生徒会から4項目の改正要求が出された(サブバック、マフラー、ソックス、頭髪について)。4項目の改正は4年度、時間をかけて論議され、改正されることになった。校則改正の留意点として掲げた「生徒会の自主活動の柱として位置づけ」「保護者との連携」「教員間の時間をかけた話し合いと合意づくり」の成果であった。

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