第1節 人間主義教育への胎動 (昭和58〈1983〉~60〈1985〉年度)

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学校目標のもとに主体的な教育づくり
安城学園高等学校においては、昭和58(1983)年度に、学園長を兼務する寺部清毅校長に替わり、前熱田高校校長の桜井梅弘氏が校長に就任した。新校長の就任は、私学危機の局面を目前に、新しい教育づくりに邁進していた教員に期待感を与え、学校運営の具体的な年度目標の設定を求める声が高まった。

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学校目標を掲げ、計画的組織的に、独自の教育を着実に推進することになった。学校目標は年度の重点目標となり、教員の積極的な意思が学習指導、生徒指導両部の具体的政策にまとめられ、主体的な教育づくりが、意欲的に進められた。
この頃、平成元年度を頂点とする高校入学者急増急減期の前兆が現われ始めた。58年度には全校で39クラスであったが、毎年1クラスずつ増え、60年度には、42クラスに増大した。難局を前にした58年度に、寺部学園長は、運営委員会や職員会議で、急増急減期対策に関する意見聴取を行うなかで、次のように、確固たる口調で述べられた。
「本校は、かつて難局に遭遇し、その都度、困難を発展の力としてきた。小事にとらわれず、文明の動向と教育の大局的見地に立ち、本校の建学の精神をすべてのよりどころにして、本校独自の教育を推進するように。すでにこれまでこれに備えてやってきている。」
また学園長は、私学教育はいかなる時代にあっても、常に建学の精神を目標に、全教員の主体的な努力の結集によって創造されるとする、普遍的な共通理解を促された。
そして、本校の命運をかけて、総力を挙げての取り組みが展開されることになったが、その中心的原動力になったのが、教員合宿研修会であった。
夏休みの教員合宿研修会が、本校教育のあり方を全員で時間をかけ徹底的に討議しようと、定例化された。また、学年や両部の研修会が頻繁に行われた。
そこでは、生徒実態の分析をもとに、教科指導、クラス運営改善、カリキュラムの修正や入試制度の改革など、総合的に改善策が検討された。全教員が学園教育の発展を考え、政策を展開する動きがここに始まったが、これは画期的なことであった。

58年度の教員合宿研修会では、当時の私学振興室長の市野春男氏の「私学危機を乗り越えるための教育づくりの指針となるもの」と題した講演に続いて、家庭科廃止に伴うカリキュラム部分改訂や、コース選択科目の変更、評価・評定方法の改善が検討された。
次いで59年度には、進路指導、授業、生活指導、クラス運営、特別活動などの具体的な指導方法が検討され、そこでは、画1的な指導から生徒の自主性を伸ばす指導への質的転換が求められた。
60年度に、寺部学園長は「本校のこれからの教育―その一考察」の講演にて、21世紀の教育のあり方を、現代文明を第四の変化期と捉えながら、次のように説かれたが、この卓越した教育観は、本校における抜本的な教育改革の糸口を与えることとなった。
「国際化に伴う自由化や個性化が進むなかで、みな『3』にする旧来の画1的平均的な知識教育に変わり、知識を応用展開し新たな知識をつくる創造力と、変化や困難に耐える強い意思力を備えた主体性を持つことの出来る人間教育、優れたものを伸ばしてやる教育が必要になる。こうした教育を目指すことこそ、建学の精神の理想像を21世紀に具体化していくものとなる。」
この頃、より良い私学づくりの運動が県下で繰り広げられ、私学助成の請願署名が本校でも実施されるようになるとともに、私学の入試改革も進められた。
本校は、60年度の全受験生に対し、筆記試験に加え、面接試験を体育館をも使用して実施した。
同年には、推薦入試制度の導入も検討され、翌61年度入試から、募集定員の80%を、国・数・英の小テストと面接からなる推薦入試で、残りを国・社・数・理・英の筆記試験からなる一般入試で選抜する、2本立ての入試制度が実施された。このような大幅な推薦入試化は、私学入学者の質的向上と私学の主導性確立を意図したもので、伝統的な有名進学高校や大学短大を併設する高校への入学希望者は大幅に増加した。本校でもその成果が顕著に表われ、推薦入試受験者775名、一般入試受験者2,036人と激増した。
これは、入試の制度上の改革に止まらず、選ばれる私学、魅力ある私学としての教育内容の良さを、世に問うことにもなった。
本校は、高大一貫教育の教育的優位性をより鮮明にしながら、入学案内を2万部配布するなど、積極的な募集政策を展開した。

高大一貫教育の推進とその成果
総合学園として独自の教育を展開するために、系列大学、短大と一貫した教育体系を確立することが重要課題であった。
そこで、カリキュラムは、高大一貫教育をその機軸として構成され、58年度には、クラス編成も、進路目的別に編成された。
2年次の「進学コースA1」は、家政・理科系(系列校大学家政学部被服・食物コース、短大家政・生活・服飾に対応)、「進学コースA2」は、文科・教育系(系列校大学家政学部欧米文化コース、短大国際教養・幼児教育に対応)、「職業コースB1」は、普通科・商業科、「職業コースB2」は、家庭科とされた。
59年度1年生には、系列校大学家政学部や短大国際教養科進学希望者の英語力の向上を図るため、英語補習(ゼミ補習)を週2時間実施した。当時、系列校への推薦入学は、本校推薦者は、面接試験のみの優遇措置がとられ、進学者の95%が系列校へ進学する状況となっていった。
59年度からは、新入生の学力を継続的に調査し、教科指導に役立てるために、学力診断テストが行われるようになった。
60年度の結果からは、学力差の拡大が認められたので、学力補習や年度末に行われた確認テストに加え、1年A組の英語ゼミ補習や全学年を対象とする早朝補習が設定された。それまでの1A学習合宿が、59年度には、2・3年生進学希望者を含めた開田サマーゼミ(60年度には94人が参加)となるなど、学力差に応じた指導が強化された。系列校希望者の学力向上を図るために、3年生に校内推薦模擬試験も行われた。
カリキュラムの面では、56年度カリキュラムが、58年度には、全学年に適用された。このカリキュラムには従来に比べ、進路・コースや科目などの選択指導、MD(相互発展の時間)やLTなどの教科外の特別指導、選択科目の教科指導など、多様な指導力が求められた。学年会で指導方法を審議検討しながらの実践は、まさに生みの苦しみであった。
3年目を迎え、いくつかの問題点が指摘された。その問題点の中心は、一部の自信のない生徒が、消極的な選択決定をする結果、そうした生徒が特定のクラスや選択に集中し、クラス間格差が端的に表われ、特定クラスの授業やHRの運営が大変になることであった。さらに、担任指導のMD2時間の展開の難しさから、時間減や廃止を求める要望が出された。
生徒数の激増は課題解決の必要性を強め、カリキュラムの部分的修正が次のように矢継ぎ早に行われた。

59年 選択群の英語2単位(2・3年の進学コース)を必修英語へ吸収。
60年 3年でのMDは、1単位に減単。Aコース選択f群を1単位増加、Bコース現代文を1単位増加、家庭科廃止、選択に被服・食物を設定。2年選択科目の古典と英語Sの組み替え。
61年 1・2年MDを1単位にし、国語(1年)、数学(2年)の1単位増。
62年 2年選択和文タイプ・英文カナタイプをワープロに変更。3年商業経済Ⅱを情報処理Sに変更し、選択dに被服を追加。

部分修正が進められるなかで、HRや授業集団などの組成方法が、学校教育において極めて重大な要素であること、同レベルの同質的な集団編成は生徒の活性化をもたらさず、かえって逆に、停滞を生み出すこと、などの事実認識をすることになった。

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家庭科の廃止が58年度に決定されたことも、重要な出来事であった。
これは、高大一貫教育体制の進展とともに、2年次からの家庭科選択希望者が激減したことが背景である。翌59年度から、家庭科の募集が廃止された。60年度には、家庭科の万感の思いを込めて、「出発」をテーマに、最後の家庭科卒業作品発表会が行われた。以後、伝統的な本校独自の家庭科教育は、女性学や選択科目の中で活かされることになった。
ところで、就職状況は、58年度の景気後退とOA化の影響が端的に表われ、前年度に比べ、求人企業数が一挙に120社ほど減少した。しかも、職種は、事務職求人が減少し、技能職の増加となった。
就職状況の大きな変化に対応し、毎年、約380人の就職希望者を指導してきた職業指導部は、事務職減を食い止めながら、本校の職業指導教育の先進性を紹介し、積極的な事務職の求人開拓を展開した。
時代の変化に即応すべく、60年度には、商業科教員の努力により、他校に先駆けて、ワープロ30台を一挙に導入し、情報処理教育がスタートした。
一方、教育指導力の向上のための措置も行われた。58年度より、非常勤講師(59年度には34人)との連絡会が開かれ、研修が定期化された。
また公開授業は、それまでの教科単位での方法に変わり、58年度には「ベテランに学ぶ」、「中堅に学ぶ」、59年度には「若手に学ぶ」と、教科の枠を越え、相互の指導力の向上を図るために拡大された。
この他、本校の先進的な教育実践としてスタートした創作活動は、60年度に10年を経過したが、これを記念し、『潜在能力の開発を目指して―創作活動10年の歩み』が発刊された。創造性育成のための優れた実践がまとめられており、各方面より高い評価を得た。

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生徒の自主性、創造性の発揮のために
生徒の人格形成を全人的に促すためには、優れた文化的感動体験が有効である。こうした考えに立ち、毎年、MDの学年テーマ、1年「生きる」、2年「学ぶ」、3年「培う」に沿って、文化行事が積極的に、次のように実施された。(敬称略)

58年度
講演 大貫映子「ドーバー海峡を泳いで渡る」
芸術鑑賞 劇団銅鑼「あっぱれクライトン」
映画鑑賞 「ねむの木の詩」「地球は生きている」

59年度
講演 加藤諦三「生きる」1・2年/須田幸子「私のアメリカ」3年
映画鑑賞 「天地創造」
演劇 青年劇場「少年とラクダ」

60年度
講演 江原昭嘉「生きる」1年/河野美代子「さらば悲しみの性」2・3年/品川孝子「明日に生きる子供の教育」幼児教育進学希望者
演劇 劇団新人会「はかま垂れはどこだ」

優れた実績や活動をされている著名人の直接体験談を通して、ひたむきな生き方を学ぶことの出来る体験は、生徒たちに、強烈な印象と感動を与えるとともに、積極的な生き方の素晴らしさを与えた。
生徒の自主性や創造性を発現すべく、さまざまな指導が工夫され実践された。
58度の学園祭は、創立者生誕100周年を記念し、「新たな青春への羅針盤―地域の信頼、豊かな創造の広場を目指す」をテーマに、生徒会が意欲的に企画運営し、特に生活文化や女性の生き方に関するクラス発表が多く出された。
59年度の学園祭は、すべての生徒の自主的参加を意図し、「一人一役」を合言葉に、「現在は未来への第一歩、未来に向かって翔こう」をテーマに実施された。従来の展示や発表に加え、アフリカ難民救済募金活動が行われた。
翌60年度の学園祭は、教師主導型を脱皮し、生徒の力で作る学園祭へと本質的な改革を図る大胆な方向性が求められ、学年会のクラス代表者会議が組織され、各クラスの取り組みを学年集団として支えながら、「深めよう青春の絆を」をテーマに開催された。正門と通用門には、「虹」を形どった巨大なシンボルゲートがかけられ、生徒の新たな息吹きを華やかに盛り上げた。
自主・自治能力を高めるべく実施されてきたL・C(リーダースキャンプ)にかける期待も増した。
59年度は、多くの教員も参加して生徒とともにクラス運営や学園祭を考えようと、2年は、「安城青年の家」で、クラスの事例研究、授業や学園祭について、代表者会の運営などをテーマに、熱心にリーダー養成が行われた。

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生徒の活発な動きは、部活動にも反映した。
58年度全国高等学校総合体育大会が愛知県で開催され、本校は、バスケットボール競技会場となり、多くの教員や生徒が運営に参加した。
また、ソフトボール部は、県代表として出場し、3回戦へ進出した。同部は、全国私立高等学校女子選抜大会(毎年3月実施)にて準決勝へ進出、59年度は国民体育大会に出場するなど、輝かしい成果をあげた。
また、飛躍的なレベルアップを遂げた吹奏楽部は、60年2月に第1回定期演奏会を安城市民会館で開催、超満員の聴衆を前に、感動的な演奏を披露した。以後、多くの中学校の吹奏楽部員の見学が相次ぐようになった。
生徒指導の面では、全国的に校内暴力事件などが社会的問題として、大きく報道される状況で、本校の指導生徒数は、58年度には、前年度比5.3%減と、急減した。
そして、新しい視点に立つ生徒指導方法を求め、生徒心得細則が検討された。59年度には、ソックス、前髪、スリッパの規定が改訂され、生徒理解の科学的方法として、クレペリン検査が実施された。自動車学校入校も就職準備の便宜を考慮して、冬休み期間中も許可されるようになった。60年度の生徒指導部目標には、「生徒会・クラス・クラブの活性化」という積極的な目標が設定され、生徒会のオアシス運動が実施された。

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新しい発想に立つ優れたデザインや機能を備えた制服が求められた。60年度には、デザイナーの花井幸子事務所から黒滝女史を招き検討し、生徒の意見を反映させ、新しい制服に明るい思いを寄せながら、急ピッチで改訂の作業が進められた。
この頃、施設面では、58総体に合わせて体育館のフロアーが改修された。本館1・2階と通路のペンキ塗りも行われ、汚れの目立っていた校舎が明るくきれいになった。また、創立者の寺部三蔵先生胸像が作り直され、その除幕式が行われた。
59年度より、校舎建て替えの準備が進められ、翌60年9月に新校舎設計図が教員に提示された。南館、西館、東館、体育館、管理棟以外の校舎は新築することになり、プロジェクトチームが作られた。
工事は、管理棟周辺の植木の移植についで、3学期には、本館東側の木造の法人会議室(2階)、音楽室(1階)の校舎から解体が始まった。3年生が卒業後、北館解体と仮設校舎建設が行われ、仮設校舎への引っ越しや保健室の改装が行われた。そして、3月25日には、職員室が最後に管理棟3階の多目的ホールへ移り、引っ越しが終了した。

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