第1節 21世紀に向けて内容充実のとき

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(1)短大をとりまく諸問題と対応
本学は明治45(1912)年に、安城裁縫女学校として創設され、平成14(2002)年90周年を迎える。短期大学としては、昭和25(1950)年の学制改革により、安城女子専門学校改め安城学園女子短期大学として出発した。以来、今日までの53年間の歩みを10年ごとの学園史によって振り返ってみても、けっして平坦な道のりではなかった。創始者である寺部だいの女子教育に対する情熱は、いささかも衰えることなく受け継がれたが、時代の流れは、時に厳しく本学の行く手に立ちはだかった。特に、大学を含む高等教育が厳しい冬の時代を迎えている現在、本学もその例外ではない。

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本学の先の10年間(昭和58年~平成4年)が、総合学園拡大期として発展の枠組みづくりが行われたのに対して、それに続く10年間(平成5年~14年)は、21世紀への生き残りをかけて、内容の充実をめざし、種々の試みを行った期間であったと言える。
教育は社会の動向と深くかかわっている。国際社会にあっては、東西ドイツ統一(平成2年)やソビエト社会主義連邦の崩壊(平成3年)に代表される社会体制の変革があり、著しい産業、経済発展の代償としての地球規模での環境問題が深刻化し、各地に戦争が続いた。国内では、平成元年を境に、バブルの崩壊と景気の停滞、また凶悪犯罪が多発し、20世紀最後の10年は人々の心に不安と暗い影を落とした。このような状況は、若い年代の人々に大きな影響を与え、未来を見通すことが困難となり、人々の価値観を変化させた。18~20歳の若い世代を対象とする短大の教育にも少なからず影響を与えた。
短大に対する影響は、まず少子化という社会問題と関連して表れた。すなわち数次にわたるベビーブームが終わりを告げ、平成4年をピークに、18歳人口は急減期に入った。4年の18歳人口は205万人であったが、13年には151万人に、更に10年後には120万人程度へ推移することが示されている。高度成長期を通じて上昇を続けた高等教育への進学率も平衡状態に達した。
13年8月10日の文部科学省による学校基本調査では、2年以降上がり続けた現役高校生の進学率は45.1%に達したが、女子の短大進学率は減少したと伝えている。特に、現役女子高校生の専修学校専門課程への進学率は20.0%で、かつての短大希望者が専修学校や4年制大学を選ぶ傾向にあり、短大への進学者は8.6%減の103万人であることを報じている。これはバブル崩壊による経済事情の悪化、企業のリストラ化などの影響による就職難、即戦力を求める社会の風潮、若い年代層の価値観の変化などが複雑に絡み合った結果である。
このような厳しい状況のなかで、8年5月、寺部清毅前学長の死去の後を受け継いだ寺部学長のもとで、新しい歩みが始まった。国際化、情報化に加えて、地域性を重視する短大へと歩みを強めた。長年にわたり、この地域に多くの人材を送り出した本学は、世代を超えて「選ぶ大学から選ばれる大学」をキーワードにできる限りの変革を行った。専門学校との差別化、新しい時代に即応した短大の存在意義、役割と将来の展望を求めて模索した。

まず、文部省の指導の方向でもある男女共学化への取り組みが挙げられる。12年度に従来の「愛知学泉女子短期大学」から「女子」の2文字を削除した。翌13年度からは幼児教育科を除く4科が男女共学へ移行し、服飾科に2名、生活科に1名、国際教養科に2名の男子学生が入学し、これまでとは異なる雰囲気がクラス内に生まれ、成果を上げている。
教育内容については、短期大学設置基準に沿って専門教育、職業教育、教養教育を柱に進められてきた。短期大学を単に知識や技能の修得の場所としてではなく、絶えず潜在能力の自己開発に努め、生活に根ざした学問をめざす場所とすることを重要視している。ますます多様化し、すべての領域が細分化するなかにあって、専門教育の徹底は時間的に限界がある。逆に、実務教育については、一定の技能のみを重視する専門学校教育が、即戦力を求める企業の要望に合致していると言われている。もとより教育は、建学の精神を堅持しつつ時代に即応すべきであり、時々の世の中の風潮に安易に左右されるべきではない。真の生活の豊かさが求められる現在、単なる狭い範囲の技能習得ではなく、日々の生活のなかで遭遇するさまざまな事柄に対処し、問題を解決する道を探る能力を身に付けるためには、全人教育が重視されるべきである。その点を踏まえて、種々の努力が試みられた。
今後、短大5科の統廃合が行われることがあるとしても、本学が短大として50年余りの歳月をかけて確立した理念は、必ず受け継がれていくと確信されている。

(2)教育の活性化と新しいカリキュラムの構築
本学は、平成5年度入学生より、抜本的に改正したカリキュラムを導入した。これは、3年7月施行の「短期大学設置基準」の改正による教育課程の大綱化・自由化を受けたものである。同時に、本学が女性の潜在能力の開発をめざした80年間の教育実績を基に、更に活気に満ちた教育、ならびに多様化する価値観を背景とする今後の社会に対応するための教育をめざす、基盤整備ともいうべきものである。改正したカリキュラム内容の骨子は、次の5点であった。

1、従来の一般教養科目および専門科目の区分を、基礎科目および専門科目とした。生涯の基礎となる豊かな教養を育む基礎科目と、専門科目との有機的な関連性に配慮した。
2、幼児教育科(4年度改正)を除く、服飾科、生活科、家政科、および国際教養科の教育特性を十分に反映する専門科目を配置した。
3、講義・演習・実験・実習については、1単位の授業時間の原則を定めた。学生が教室外でも考え、創作し、学ぶ姿勢を考慮し、時間的な運用の改善を図った。
4、本学入学前の既修得単位(大学・短大)あるいは外国の大学・短大への留学で得た学習の成果を、15単位を越えない範囲で、卒業要件単位として認定することとした。
5、服飾科、家政科、国際教養科では、全国大学・短期大学実務教育協会が認定する秘書士の資格の取得を可能とした。

改正されたカリキュラムを効果的に運用し、日常の学習を充実させるため、授業の内容、進め方などを具体的に示す「シラバス(授業計画)」を科目別に作成して、平成6年度入学生から使用することとした。従来は、「キャンパスライフ」の「第4部 学習の手引き」に、科目の紹介を掲載していたが、この部分の内容を更に充実させて別冊とし、学生自らによる科目登録、授業での効果的な活用を期待した。
学園創立80周年記念として、5年3月に着工した岡崎キャンパス再開発事業のうち、1期工事分として2号館、1号館(旧管理棟)の一部が、6年3月竣工した。続いて、1号館、3号館(旧北棟および学生ホール)、5号館(旧東棟)、白楊寮などの改修、および造園工事などの2期工事が順調に進み、すべての工事が11月で終了した。家政学部と共用する新校舎には、各種実験・実習室、講義室などの設置、最新の教育・研究機器、備品が配置された。また、第1~第3情報処理室に導入されたパーソナル・コンピュータやワード・プロセッサー機器、あるいは、オーディオや映像機器が整備・充実された視聴覚教室は、時間外の学生の自主学習にも活用されている。

本学は、10年度より、以下の2点において新たな時代を迎えた。

1、コミュニティ政策学部新設に伴う、入学定員の減員
入学定員は、服飾科60名(内臨時定員増分20名)、生活科80名、家政科80名(内臨時定員増分40名)、幼児教育科100名、国際教養科150名の合計470名から、服飾科50名(同)、生活科70名、家政科70名(同)、幼児教育科80名、国際教養科80名の合計350名になった。これは、愛知学泉大学の新学部としてコミュニティ政策学部(入学定員190名)が発足し、それに伴う入学定員を振り替えたことによるものである。
また、急激な18歳人口の減少化が今後とも加速していくなかで、4年制大学への女子の進学志向の高まりを受けた決定であった。

2、本学国際教養科の若林学舎から岡崎学舎への移転
昭和57年、大学・短大を誘致する愛知県豊田市の意向を受け、短期大学としては本学が全国で最初に国際教養科を同市若林東町に開設した。以来、16年間にわたり、本学国際交流の拠点でもあった。この移転は、本学の統合、更なる発展充実を期す長期構想に基づく決定であった。

(3)選ばれる短期大学をめざして
明治元年の「学校令」の発布、第二次大戦後の教育制度改革、そして、第三の改革と言われる「短期大学設置基準」の改正が、平成3年7月、施行された。この第三の改革によって、短期大学の教育課程は大綱化・自由化され、各大学による自己点検・評価実施の義務化、大学の公開化が推進されることとなった。短期大学が、その後の競争的改革を実行するうえで、その指針となる金字塔である。
本学は、このような競争的改革の必要性と実行を、冬の時代の到来に先駆けて強く認識する存在であった。平成5年度から、先の指針で示す教育課程の大綱化・自由化をよりどころとして、新カリキュラムの導入を図った。この導入は本学改革の緒であり、今後の改革の先導的な基盤整備として以下の3点を盛り込んだ。

1、本学教育は、生涯教育の入り口と位置づけ、そのためにも教養を育む教育を重視
2、5科の特性を生かした、専門教育を充実
3、カリキュラム配置のなかで、各種の資格が取得できるよう配慮

平成5年度は、また、基準の改正で示す第二の指針に沿って、「自己評価検討委員会」が制度化され発足した。本学の向上、改善のためにあらゆる問題点を発見し、解決するため、全学で点検の作業が開始された。学生を対象とした「学生生活と授業に関するアンケート」「学生による授業アンケート」また、教員を対象とした「教育と研究と管理運営に関するアンケート」を3本柱とする、基本調査である。この調査結果は、中間的にまとめられ、7年5月、「自己点検評価の総括(その1)」と題して、刊行(150ページ)し、公表された。
そのなかで、以下の4点を総括し、評価は本学内外に期待した。

1、学生による、本学教育の現状に対する認識と、期待感
2、教員による、教育・研究・管理運営の現状に対する認識と、今後の取り組み
3、改善すべき問題点の摘出
4、改革のための不断の努力として、自己点検と評価の作業の継続

9年5月、寺部曉学長の指名を受けて、「建学の精神」具体化委員会(7名)が発足した。本委員会は、21世紀の社会のありようを「共生」と位置づけ、その構成要素は「自立」にあることを前提とした。建学の精神に基づく、21世紀初頭の本学教育の基本構想について提言をまとめ、10年3月、公表した(10ページ)。提言の骨子は以下の3点であり、本学が、新たな世紀に向けて開花するための、橋頭堡となるものである。

1、創立者の理想に立脚した、学生ならびに教職員の使命を、次の時代に向けて確認
2、本学の使命と存在意義は、未来永劫にわたり、地域社会に根ざし、18歳人口を対象とする教育である。同時に、社会人の学修の機会を提供する教育の場でもある。
3、早急な検討課題を指摘
 ・男女共学化
 ・5科体制の改組・転換
 ・本学園が設置する安城学園高等学校、岡崎城西高等学校との連携
 ・愛知学泉大学との連携

本学は11年3月、再び校務ならびに教職員自らの自己点検と評価の作業を、継続的に実施して、向上に向けての改善点を公表した。

13年度学生募集では、従来の指定校推薦入試、推薦入試および一般入試に加えて自己推薦入試を導入した。自己推薦入試では、社会人入試を容易に提供する機会となり、学生募集形態の多様化を試みることとした。
本学園が設置する幼稚園(3園)ならびに高等学校(2校)に、それぞれ在籍する園児や生徒の保護者、その教員、更に本学学生の保護者を対象にする、科目等履修制度の運用の見通しを、13年度開始に合わせ実施した。
14年度には、本学園創立90周年を迎えるに当たり、大学家政学部家政学科の改組が行われた。従来のコース制から、家政学専攻と管理栄養士専攻の2専攻に教育課程を独立させるため、定員増を伴うものである。このため、本学の入学定員は、現在の合計340名から60名を減員して、280名の予定とした。本学にとっては規模の縮小ではあるが、「受験生から選ばれる短期大学」をめざして、教育の集中、教育力の高揚、そして、活気あふれる学生と教職員のキャンパスの創出につなげる好機となるよう努めなければならない。

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