第2節 学科の改組転換と岡崎学舎統合

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生活デザイン総合学科の開設と特色
10年間の概略は以上述べたとおりであるが、その中でも大きな動きは生活デザイン総合学科の開設による学科の再編であった。
平成10年代、バブル経済の後遺症で日本経済は不況が長期化していた。その影響もあって、それまで喧伝されていた「国際化」に対する社会一般の熱は冷めつつあり、教養や外国語習得に対する高校生世代の関心は薄らいだ。そのような状況の中で、本学5科のうち、国際教養科は平成11年(1999)から定員割れの状態が続いた。「募集状況」の表にあるように、平成14年(2002)は国際教養科のほかに服飾科が定員割れをしており、15年(2003)には家政科も定員に届かなくなった。そのためこの3科の改編が大きな課題になってきた。
文部科学省は、平成13年(2001)、短期大学の学科において複数の履修分野を網羅する教育課程で編成される「地域総合科学科」(一般財団法人短期大学基準協会が認定する学科の総称)の設置を認める方針を示した。すなわち、18歳人口の減少を背景に、従来のような高校卒業生のみを募集対象にした短期大学の学科ではなく、対象を地域社会に広げて、学びの拠点として生涯学習や幅広い学習者の要望に応え得る欧米のコミュニティ・カレッジに類似した短期大学の学科創設を許可したのである。この新たな学習拠点としての役割を担う学科創設の動きは、本学3科の課題解決にとっても、3科の特色や専門性を生かしそれまで培ってきた教育の伝統を活用できるという意味で魅力的であり、強力な指針となった。

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そこで、「地域総合科学科」の先発設置を果たした香蘭女子短期大学(福岡県福岡市)の教育課程や実施体制をモデルに、本学は一般財団法人短期大学基準協会が認定する「地域総合科学科」の要件を満たす独自の教育課程(基礎・教養分野と5つの履修専門分野(「フィールド」と命名)を含む)を編成した。そして、所定の審査を経て、平成15年5月に文部科学省から「生活デザイン総合学科」(「地域総合科学科」)の開設認可を受け、学生募集を開始した。この間、開設に向けた一連の作業は学園政策室長(理事長)から任命された教務部長(現安藤学長)を中心に川瀬教務委員と3浦事務長らのチームによって1年半をかけて進められた。新学科の特徴である教育課程は、基礎分野(「ベーシック・フィールド」)として「教養ユニット」と「共通ユニット」を置き、専門フィールドして国際教養科の実用英語と国際知識を核とした「コミュニケーションスキル・フィールド」、服飾科からドレスメーキング、アパレルビジネス、美術・造形の分野を再編した「ファッション・アートフィールド」、家政科から家庭生活・社会生活・比較文化をテーマに構成した「ライフデザイン・フィールド」を置き、さらにコンピュータとビジネス関連の「メディアオフィス・フィールド」、福祉と健康をテーマにした「ヘルスウェルフェア・フィールド」の2つを加えた。社会人対象の「オープン・フィールド」を加えると、全部で7つのフィールド、23のユニット、145の科目数をもつユニークな学科となった。取得できる資格は秘書士・図書館司書・訪問介護員・レクリエーションインストラクターの4つあり、また、多種の検定試験にも対応したカリキュラムであった。入学定員160名と比較的大きな規模の学科であったが、初年度(平成16年)から定員を上回る入学者を得た。

新学科の教育目標とカフェテリア履修
新学科が多くの高校生の関心を引いたのは、「カフェテリア履修」という、従来の履修方法とは逆の履修方法を選択したことが大きく作用している。従来の学科は、まず教育目標を定め、学生はそれを実現するためのカリキュラムに従って重層的に学習した。一方、新学科は、学習プログラムを学科が学生に与えるのではなく、学生自らが作成し横断的に履修するものである。新学科は、その教育目標として、「(大きく変化している)時代や環境を広い視野から見て理解し、そして、自己の価値観に基づいて、職業やライフスタイルを含む自分の生活を設計(デザイン)し、その実現に必要な知識や能力、技術を身に付けていくことのできる主体性を持った人間」を育てることを掲げた。自分の生きている時代や社会を理解し、自己の価値観に基づいて設計した将来のために、今、自分は何を学べばよいか学生が作成した学習プログラムは、その問いに対して学生が出した答えであると考え、プログラム作成における教員の役割を、学生の相談に応じる次元にとどめた。この学生の主体性を重んじた生活デザイン総合学科のあたらしい履修方法が広く志願者から支持を得たのであった。

新学科の課題=不断のリニューアル
学生に学ばせたい科目を提供するのではなく、学生が学びたい科目を提供する。このあたらしいコンセプトで開設された新学科であるため、学生の要望に応えるカリキュラム改定を不断につづける必要がある。だが、流行に迎合するような改訂を続けていって、掲げた教育目標から遠ざかるような結果に陥ってはならない。実際問題としてはディレンマとして立ち現れるこの困難な課題に苦慮しつつ、2年ごとにカリキュラムの改定を続けてきた。
開設時のカリキュラムと、8年後の平成23年度(2011)に改定されたカリキュラムを比較すると、学生の要望を優先し、状況の変化に対処した変更が多いことに気づかされる。自分の将来を見据えた学習というより、当面の興味を満足させるだけの安易な履修に流れる傾向が顕著になるにつれ、教員のあいだから、短期大学卒業生として身につけるべき知識や能力・技能を教えるべきではないかという声が強くあがりはじめた。あらためて、学科設置時の趣旨(学科が提供するのではなく、学生がつくる学びのプログラム)を確認しているが、誠実に向き合い続けなくてはならない淵源である。

生活科から食物栄養学科へ
生活科は昭和25(1950)年、安城学園女子短期大学の発足時に入学定員80名で、被服科と共に設置された。その後の変遷を経て、平成14年には併設の愛知学泉大学家政学部家政学科管理栄養士専攻の新設にともない入学定員が40名へと減員となり、翌年の平成15年に科名称を食物栄養科と変更し、長く親しまれた生活科の名称に終止符が打たれた。さらに平成16年(2004)には、生活デザイン総合学科の新設を機に食物栄養科から食物栄養学科へと「学科」に統一された。
この10年間は、栄養士養成に深くかかわる国の健康政策が大きく変貌した時代であった。すなわち、平成14年の「健康増進法施行(栄養改善法廃止)」や平成17年(2005)の文部科学省・農林水産省合同による「食事バランスガイド」の策定など、国民の健康づくりに大きく関わる施策がなされた。また、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の急増に加え、糖尿病・高血圧症が増加するなどの国民へのあらたな健康不安要因を踏まえて、国は「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」を策定して国民の健康づくり政策を推進することとなった。
とりわけ、栄養・食生活分野の改善を担う栄養士の養成を目的とする本学科ではこうした変化を踏まえて学びの目標を「食と健康に関する専門職として必要な知識と技能を重点的に教授すること」と明確に位置づけ、学修成果をとおして地域・社会に貢献できる社会人を育成することを自らの使命とすることを確認した。そこで、平成18年(2006)からは校外実習に係る事前指導および事後指導の充実と複数教員による給食管理実習を開始した。これは少人数単位のグループを編成し、献立作成や発注・食材料の検収、調理および配膳、喫食者サービスを行うなど「給食の運営」に関する本学独自の教育プログラム方式であり、その学びの成果は校外実習で高い評価を受けている。
一方、平成16年(2004)からは栄養士の質の均1化とその向上を目指して、社団法人全国栄養士養成施設協会主催の「栄養士実力認定試験」が全国の養成施設の学生を対象に実施されることとなった。本学科では過去5年間の成績が全国平均得点を上回っており、一定レベル以上の教育の質的水準が外部評価の視点で担保されている。平成18年度から平成20年度(2008)までのあいだは「JICA研修生活習慣病予防対策コース:お国自慢料理」への参加、平成20年からは地元企業(安城市内、いずみ製菓株式会社)との産学連携事業並びに岡崎商工会議所と協同する地域活性化事業などに精力的に学科を挙げて取り組み現在に至っている。また、平成19年(2007)からは岡崎市のPFI事業「岡崎げんき館」で、本学園が実施主体となる「健康づくり支援事業」の一翼を食物栄養学科が担い、多彩で実践的な食と健康に関する研究成果を地域に還元している。

幼児教育学科の移転と短期大学の岡崎学舎統合
幼児教育学科(平成16年、幼児教育科から名称変更)は、昭和41年(1966)に愛知女子大学(後の安城学園大学を経て現在の愛知学泉大学)家政学部の設置にともない、同大学短期大学部の科として岡崎市舳越町に開設された。さらに、昭和53年(1978)4月からは創立者寺部だい先生の生誕の地である安城市桜井町稲荷東20番地に幼児教育学科は移転した。平成に入ると、所在する桜井地区では人口増や発展にともなって区画整理計画が持ち上がり、これに対する換地や減歩等の課題並びに校舎の老朽化による建て替えの問題も浮上した。そこで、これらの課題を踏まえて桜井地区から岡崎学舎に幼児教育学科を正式に移転させることが決定された。

岡崎学舎への統合にともなう施設の充実
平成19年4月より、安城学園創立95周年記念事業の一環として幼児教育学科は岡崎学舎へ統合され、3学科が1堂に揃う短期大学の新たな出発となった。それにともない、岡崎学舎の校地において新たに3つの施設が整備された。一つは、新5号館(6階建、総面積6,546平方メートル)の建設である。1階に食堂「ラ・フォンテ」(学生の応募により命名)を配した(席数378)。「ラ・フォンテ」はメニューも豊富で、好きなものを自由に選べるグラム売りバイキングが人気である。明るく開放的であり、芝の中庭が眺望できる。また2~3階フロアには機能強化された図書館を擁し、いっそうの教育環境の充実が図られた。例えば、開架式を主に、学生が資料を選びやすくした。また、あたらしい資料に対応できるように映像関連の機器を整備した(総面積882平方メートルから1,131平方メートルへと拡大、座席数121から210へ拡大)。46階部分は、幼児教育棟としての各教室が配された。その中には、一般教室に加え、保育室を再現した小児保健実習室、美術教室や造形教室、最上階には全フロアをダンスの指導者養成にも有効な幼児体育室を設けるなど特色のある特別教室が整えられた。このように、5号館建設により、岡崎学舎の建物は1号館・2号館・3号館・体育館のすべての建物が回廊形式になり、中心に芝の庭を憩の場として配置し、学生が集い交流できる中庭形式となった。

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2つ目は、正門東側に音楽教育ならびに市民や地域に開放すべく、オーケストラの練習場とホール等を兼ね備えた音楽棟(2階建、総面積1,711平方メートル)が建設されたことである。音楽棟には多目的教室やピアノ練習室(20室)に加え、2階には愛知学泉大学オーケストラ部練習場を兼ねたホール(350名収容)がつくられ、オーケストラ部の活動発表や地域に開放し地域の音楽活動の普及等の施設整備となった。あわせて、2号館南側に日常的に学生が運動できるようリクリエーション広場を整備した。

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平成19年6月26日には、これら岡崎学舎新校舎の竣工を記念した式典ならびに披露・祝宴の会が、地域の代表者をはじめ、教育・企業・各種団体等の学外関係者ら130名の参列者を得て行われた。そして3つ目に、隣接地(ユニチカ跡地の約1万4,000平方メートル)を購入して駐車場やテニスコートを整備した。その後、平成20年にはこどもの生活専攻設置にともない、1号館2階に講義室4部屋、小児保健実習室、音楽演習室1を整備し、1号館3階に音楽室演習室2を整備した。

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短期大学の就職状況
この節の最後では、学生の学びの一つの結果である就職状況について述べておきたい(なお、大学祭や部活動・サークル活動等学生の動き全体については、岡崎学舎の場合は家政学部と一体となって行われるので、それについては第2章でまとめて叙述してある)。
この間、就職活動において、求人情報の入手方法は就職情報誌からインターネットへとかわり、説明会や就職試験の応募はパソコンや携帯電話から容易にできるようになった。一方、即戦力を求めての厳選採用の傾向は強まり、一般常識や自己表現力だけでなく「社会人基礎力」がよりいっそう求められるようになった。情報化社会の進展にともなう負の影響として学生のコミュニケーション能力は低下し、就業意識も薄れ、進路支援は困難を来たしている。また、学生は1年次から就職活動を始めるが、その際、目標を持ち将来を考えている学生は早期に就職先を確定している。しかし、自分が何をしたいのか分からず卒業直前まで進路が決まらない学生もいるなどの2極化現象の傾向にある。
以上のような状況を踏まえ、平成15年度より服飾科・家政科・国際教養科(現生活デザイン総合学科)では、1年生を対象とした進路支援講座「キャリアデザイン」を授業科目として開講した。また平成21年度(2009)より採用担当者と直接面談できる機会として、学内において「企業合同セミナー」を開催し、多くの学生が就職活動の第一歩として積極的に参加している。さらに平成22年度(2010)からは就職希望者を対象とした1泊2日の「就職合宿研修」、キャリアカウンセラーによる「キャリアカウンセリング」の機会を設けている。これらの対策は学生の意識を高めて効果的な就職支援となっている。
また、各学科において就職指導委員やゼミ担当教員によるきめ細やかな指導が行われ、ほとんどの学生が卒業後の進路を決定する。就職においては、景気による求人状況に左右されながらも毎年9割以上の高い内定率を誇っている。とりわけ食物栄養学科と幼児教育学科は専門職への就職率が非常に高く、2年間の学習の成果が発揮されている。ここ10年の卒業生の就職内定率は、ほぼ90パーセント台である。今後も多くの学生が無限の可能性を信じ、社会で活躍することを期待している。

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