第9節 盛大な展覧会

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昭和3年、新しい校地に新装なった安城女子職業学校の恒例の展覧会は、いやが上にも盛大となった。この時実際にこの展覧会の運営に当ったSさん(白崎みさをさんか)の手記を『校友会誌』から引用してみよう。
過ぎにし展覧会のことごも
昭和3年如月25日を開幕として3日間に亘る本校大展覧会!!
それは真に努力そのものゝ結晶で御座いました。何となれば学年末の整理と、検定試験の準備、それだけですら可成りせはしい時でありました為に。然し小さいハートに高鳴る燃ゆるが如き愛校の精神は、単なる苦悶そのものに依っては解決することは出来ませんでした。汗と油の産み出した展覧会!!

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真に女性の表現として――時日は切迫したのです。受付係、案内係、会場係、装飾係、売店係、風紀係の役割もそれぞれに定まり、校内隈なく準備は整ひました。
朝の冷気を破って太陽の光は祝福そのものゝ如くアーチ高くゆらぐ日の丸の旗に反映しました。踵をついで押し寄す参観者は、此の3日間に4,000名を突破いたしました。
近隣の刈谷、名古屋、岡崎、豊橋方面は勿論三重県、岐阜県等の県外より遥々泊りがけで来られた方々も少くありませんでした。それが為に安城停車場の混雑したと云ふ事も未だ新しい記憶として保存されています。会場陳列の大体は左の通りで御座いました。
(上記図版「展覧会の会場陳列」参照)
何れの会場に入りましても凡て時代の要求する新しいものばかりですが、本校の裁縫手芸が一段秀れてゐると云ふ事は自他共に認容している所で、「流石は職業学校だ」との賛辞は勿論当然過ぎる程当然の様にも思はれました。然し昔ながらのお針学校だと考へて来られた方々や学科の方はほんの形式に止まるのであらふと想像しておられた御客様方の予想を全然裏切って卓越した成績を示したものは習字及図画等で、多数の参観者の寧ろ一種の驚異とせられる所でありました。然し之とて別に不思議もなく深谷先生、渡辺先生、土屋先生の熱心なる平素の御指導の賜と今更ながら深く感謝する次第で御座居ます。廃物利用の1教室は毎日授業の後に掃き集めました時の糸屑、布切れを使用しましたものですが、出来上りの品物には、客用のものとして、少しも恥づかしくない様な夜具、座蒲団から見事なクッション等色々沢山に陳列され、御客様をして利用更生の如何に偉大なるかを暗示した事を疑ひません。
晴れやかな陳列場に、落ちついた生花や、造花が一際麗しく感ぜられた事も、否定することは出来ませんが、園児の製作品等も純真なる子供土産としては面白いものでした。
待に初日は土曜日で御座いました為か朝の早くから多人数用意が間に合はず御待ち下さいました御客様にかへて、午後からの人出は実に目まぐるしい賑はいでした。売店の品は凡て生徒の自由作品ですが、大人気で、中には店頭で見る事の出来ない様な珍品も沢山あり、従って随分高価なものも陳列されてゐました。何れも実費販売のため飛ぶ様に売れ品切となった物もありました程で御客様の満足も大変で御座いました。食堂の繁昌さ之又予定以上で座席の融通に困りはて一時は御断りした程で御座いました。
第2日目は日曜で遠来の御客様が多く前日に勝る人の海、各売店では準備の品物を取並べましたが予想以上の売行きに、続く3日の最後の人出に遺憾ながら午後からの御客様には折角の需めに応ずることすら出来ませんでした。

第4日目は本校展覧会に一段の色彩を添へて頂いた県下の出品学校43校に対して各校より代表者2名の臨席を仰ぎ盛大なる賞品授与式を左の如く挙行致しました。

1、生徒職員入場
2、来賓入場
3、一同敬礼(楽器合図)
4、開式の辞
5、唱歌(君ヶ代)
6、勅語奉読
7、賞品授与
8、学校長誨告
9、来賓祝辞
10、受賞学校総代挨拶
11、唱歌(金剛石)
12、閉式の辞
13、一同敬礼(楽器合図)
14、来賓退場
15、職員生徒退場

式後慰労大茶話会に移り、種々余興を催し、斯くして本校第17周年記念大展覧会は盛会裡に終を告げました。来年度は法の認むる東海唯一の専門学校として、一層輝かしい昇格記念大展覧会の開催される事を予想されてゐます。私達はぬかずいて来るべき母校の栄誉を弥が上ににも祈りつゝ此の記を了ります。

これは昭和3年2月に催された開校17周年記念大展覧会と名うった展覧会の模様である。新校舎の整備も漸く進み、ここにみるような盛会となったのであるが、この大参観者、作品に対するこの称賛と、驚異的売れ行きは、一気にしてなったものではない。毎年毎年の着実な努力の積み重ねによって得た評価の現われなのである。その成果の上に立っての、この大成功なのである。この年の展覧会については永田浪子(旧姓山田、昭和3年師範科卒)さんも、学校中をきれいに飾りつけ、大勢の外来者を迎えて大張り切りで学校中が湧き立ったとその様子を語っている。また同じ年に卒業した岡田カツ(旧姓榊原)さんは、展覧会成功の蔭にあるキメ細かい寺部だい先生の指導を次のように話してくれた。「展覧会のはじめの日だったと思います。すっかり飾りつけも終って開会を待つばかりだったのですが、あいにく雨が降りました。朝食がすむと、だい先生は皆んなを集めて、仕立物にアイロンのしなおしをするようにいわれました。皆んながけげんな顔をしていると、先生は、生地は湿気によって影響を受けるから、この雨でしつけが狂っているものが多いと注意されたことを記憶しております。」このような真心のこもった配慮と指導の結晶として、展覧会への声価はますます高まっていったのである。

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