第2節 家政学部

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学部改組―管理栄養士専攻と家政学専攻
家政学部は、本学の教育の原点となる学部である。しかし、定員規模が80名と小さく、スケールメリットの点で課題があった。そこで、この10年の間に適正規模である200名に近づけるべく教育内容の充実という面でさまざまな改革を実施してきた。とくに、平成14年度(2002)からは旧カリキュラムのままでは1年間の実務経験がないと管理栄養士国家試験の受験ができなくなり、4年制大学志願者の指向が栄養士から管理栄養士へと移ってきたという状況の中でカリキュラムを変更する等の対応が必要となった。
そこで平成14年度にこれまでの3コース体制(栄養コース・食品科学コース・生活文化コース)を改編した。具体的には、愛知学泉短期大学の生活科および国際教養科の入学定員を減員して家政学部家政学科の入学定員に振り替えるとともに、学生の履修上の区分に応じた管理栄養士専攻(定員80名)・家政学専攻(定員60名)の2専攻体制を発足させた。
またこの2専攻体制の完成年度である平成17年度(2005)には、完成年度後のカリキュラムおよび卒業に必要な単位数の検討を行った。管理栄養士専攻と家政学専攻の各教育目標の実現をより具体化するために専門科目群を強化した。管理栄養士専攻では、学生の卒業後の進路の幅を広げるために、栄養教諭免許と食品衛生監視員および食品衛生管理者(任用資格)の資格を取得できるようにした。さらに、家庭科教諭・栄養教諭免許を取得しようとする学生が多いことを踏まえ、学生が時間的余裕をもって学習を修め、教育効果を高めるために、管理栄養士専攻と家政学専攻ともに卒業に必要な単位数を124単位とし、平成18年(2006)4月1日から施行することとした。

創立90周年記念行事
家政学部家政学科が管理栄養士専攻と家政学専攻の2専攻体制に改組された平成14年は安城学園創立90周年にあたり、多くの記念行事が行われた。
管理栄養士専攻では、6月22日午後、「生活文化フォーラム」を開催した(於大会議室)。「病気の予防と治療に役立つ食生活」(鳥居新平教授)、「食介護の視点からみた高齢者の栄養管理」(手嶋登志子教授)、「勝つためにどう食べるか」(堀江和代教授)の3つの基調講演の後、門奈仁之教授の司会でパネルディスカッション「食で築く健康生活」を行い、最後に新しい施設の見学を行った。
家政学専攻では、8月20日に「家庭科教員支援セミナー」を開催した(於大会議室)。午前は、大会議室においてシンポジウム「『生きる力』を育てる家庭科教育」を行い、午後は、「家庭科教員のためのパソコン講座」を2講座開講した。シンポジウムは土平健雄教授の司会で進められ、最初に三重大学教育学部の乗本秀樹教授の基調講演「家庭科に学ぶ生活論と教育論―生きる力の周辺」が行われ、次に望月1枝教諭(茗渓学園中学校高等学校)・加藤勝子教諭(豊橋南高等学校)・3浦みのり教諭(安城学園高等学校)がそれぞれの教育実践を語った。それを受けて、愛知教育大学の山田綾助教授が、各教諭の教育実践を理論化・体系化した。その後の討議ではフロアの本学卒業生も積極的に発言し、家庭科教育の現状と課題について率直に語り合う場となった。午後は、井関道夫教授による「授業を効果的に見せる『パワーポイントの実習』」、丹羽誠次郎講師による「住生活教育におけるコンピュータの活用」が行われた。当日の参加者は約110名(現職の教員約50名、学内の教職員・学生約60名)であった。
「家庭科教員支援セミナー」はその後も毎年継続して実施され、県内外から家庭科教員を中心に40~50名が参加しており、現職教員に研修の場を提供しつづけている。

管理栄養士専攻と国家試験への取り組み
管理栄養士専攻は、平成14年度に家政学部の改組により設置された。教員16名、助手5名のスタッフに対して1学年定員80名の体制であった。教育方針は、「食と健康」のスペシャリストとして栄養面から健康をサポートし、人びとの幸福に貢献できる管理栄養士を育成することである。また、常に医学の進歩に対応できるように教育内容の充実を図り、専門職への就職率を上げることを目指した。
管理栄養士専攻においては学生を国家試験に合格させることが最大の課題である。ところが本専攻第1回卒業生(平成18年度)の国家試験の合格率は、48.8パーセント(全国平均72.3パーセント)と非常に低い結果であった。そこで、翌年より管理栄養士国家試験合格対策委員会を組織して、合格率を上げるシステムを開発し、3年後期にリバイバル講座(30コマ)、4年前・後期および3月に直前講座(135コマ)を設けた。さらに模擬試験は1か月に1回、計12回実施した。また、得点の低い学生を対象に8月にスーパー特訓講座(45コマ)を設けるとともに、1月からは朝8時30分より学習できるよう環境を整え5年間実施した。
また、平成19年度(2007)からは産学連携による社会人基礎力の育成を開始し、管理栄養士専攻の学生の学習に対するモチベーションの向上につながった。この点については後で触れる。また平成20年度(2008)より初年次教育の一環として「管理栄養士への道」を開講し、自己ビジョンを明確にし、大学生活の充実を図ることを目指した。
このように学生・教職員が一体となって努力した結果、平成23年度(2011)には100パーセントの合格(全国平均82.1パーセント)を達成することができた。今後は、そうした高い合格率を維持することが課題である。

家政学専攻の動向
前述のような平成14年度における家政学部の体制改編の結果、家政学専攻は生活文化と食品科学の2コースを併合したかたちでカリキュラムもスタッフも再編成された。専任教員が11名で助手が4名のスタッフで運営していくことになった。
平成15年(2003)には、内容の充実と募集力を高めるために、食の専門家としての能力があることを認定するフード・スペシャリストの資格(民間資格)を取得できるようにした。またこの年から、岡崎市立北野小学校で教員志望の学生たちによる教育現場との連携事業がはじまった。
ところで、家政学専攻では2専攻体制になったことで、学生募集において衣・食・住・余暇の4分野から生活全般を学ぶことができるというプラス評価がある一方、コース制のときと比べて学習の専門性が弱くなり卒業後の進路イメージがつかみにくくなったというマイナス評価も出てきた。そのためもあってか、現実に定員割れか、それに近い状態が続くことになり、この問題の解決は大きな課題となった。また、平成20年度にはこどもの生活専攻の新設に伴い、定員も40名とし、専任教員9名、助手2名で学生への細かな指導ができる体制にし、募集目標を52名にした。
そのためこの頃から、家政学専攻の将来像の具体的な検討が行われた。安城学園創立100周年を目処に新家政学専攻を立ち上げるための下準備を2専攻発足の翌年からはじめた。その結果、平成25年度(2013)からは、これまでの産学連携事業と学生への細かな指導といった家政学専攻の良さを活かした「スタジオ」による体験型学習を軸としたカリキュラムへと改編されることになった。

こどもの生活専攻の設置とその動向
管理栄養士専攻と家政学専攻の2専攻体制が完成した平成17年度以降、時代のニーズに十分対応したより魅力的な家政学部のあり方を考える中で、「こどもの生活」を豊かに創造できる人材を養成することを目的とし、保育士の資格と幼稚園教諭および小学校教諭の3つの免許を取得できるこども系の専攻立ち上げ案が浮上した。さまざまな方面から検討を重ねた結果、「こどもの生活専攻」(定員70名、収容定員280名)の申請を、平成19年7月に文部科学省初等中等教育局に、同年9月に厚生労働省に提出した。2つの管轄省からの認可がおり、平成20年4月1日から新専攻が発足した。
こどもの生活専攻の目標は、保育士・幼稚園教諭・小学校教諭の資格を活用して、人びとの日常生活を子育ての面から支援することのできる人材を育成することにある。
カリキュラム構成においては、1・2年生で保育士関係、3・4年生で幼稚園と小学校教諭関係の科目の比重が大きくなっている。それゆえ短期大学からの編入学にも十分対応できるようになっている。
平成20年4月に開設された当初のスタッフは12名である。そのうち9名は新任であり、3名は既存の専攻所属からの異動であった。初年度の募集は認可の時期が年度末であったため定員70名に対して入学者28名であったが、その後毎年入学生の数は増加し、平成24年(2012)4月の入学生は定員を充足するに至っている。一方、卒業生の進路について言えば現時点では第1回の卒業生だけであるが、小学校教員(講師を含む)・地方公務員・進学(大学院・専門学校)・一般企業と各方面に進んでいった。完成年度を終えた平成24年度からはカリキュラムを見直し、学生のニーズに応えた、いっそう充実した教育体制の構築が求められている。

社会人基礎力育成プログラムの実践と産学連携
前述のように、愛知学泉大学は、教育のイノベーションの一環として社会人基礎力の育成に力を入れてきた。この社会人基礎力の育成に先鞭をつけたのは家政学部、とくに管理栄養専攻であった。これには前史がある。
平成17年度11月から家政学部の学生と愛知県を中心にコンビニを展開している株式会社ココストアとのあいだで、「健康栄養弁当」の共同開発プロジェクトが開始された。このココストアとの弁当開発という産学連携事業が、学園として本格化したのが平成18年5月のことであった。ここで開発された弁当が平成19年3月には2,000食限定で発売された。
この事業の目的は、健康栄養弁当開発を通して、食品学・栄養学・ライフステージ栄養・栄養教育等の知識・スキルを総合的に活用し、課題解決能力を育成することであった。そしてこの産学連携事業は、同時に社会人基礎力育成・評価事業の一環として行われるようになったのである。
プロジェクトへの参加学生は、まず健康栄養弁当のコンセプトを把握した後、消費者の実態調査より食行動の問題点を抽出し、その問題に対して改善計画を立案・実施し、改善を繰り返した。担当教員は、実践中の課題に対して常に基礎学力、専門知識・技術、社会人基礎力の3つの能力を意識しつつ指導を行った。例えば、高血圧の予防方法は何か、血圧降下作用の栄養成分は何か、それを含む食品は何か、さらにそれはどの様な研究結果がもとになっているのか、また管理栄養士がつくる弁当とは何かといったさまざまな視点を意識させつつ、総合的に検討しながらプロジェクトを進めていった。

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平成19年度は、「活力&栄養&健康 午後力弁当―ミートボール弁当、酢豚弁当―」、20年度は、「見て知る、食べて知る生活習慣病予防 野菜多弁当―満菜チキンステーキ弁当、おから入り肉団子の菜強あん弁当―、Coco版!食事バランスガイド」、21年度(2009)は、「ミネラルの力 大地の愛実―満菜強Ca弁当、多彩菜弁当」を開発した。これらの弁当は、店頭に並ぶと同時に完売し、1か月で2万食を販売するほど好評であった。
そして、これらのプロジェクトに対して、社会人基礎力の観点から評価を行った。具体的には、12の能力要素を活動前・中間・終了後の3段階で振り返ることによる自己評価と、その後第三者による評価を受けるというシステムを作り上げていった。
同時に学内にとどまらず、社会人基礎力育成グランプリ大会にも出場した。社会人基礎力育成グランプリ大会とは、経済産業省が主催し(現在は日本経済新聞社)、全国の100以上の大学生チームが授業の課題などを通じて、社会人基礎力をどれだけ伸ばせたかを競うコンテストである。本専攻は平成20年から22年(2009)まで3年連続で決勝大会に進出し、平成20年は、「コンビニエンスストアで販売する地域の食材や健康を志向した弁当の開発」で準大賞を、21年は「将来のビジョンを達成するには社会人基礎力を原動力とした授業展開と産学連携PBLによる実践活動」でアクション賞を、22年は「管理栄養士に必要なコンピテンシーは社会人基礎力を発揮して『健康弁当開発』から学べ」でアカデミック賞を受賞した。
こうした社会人基礎力育成は、1面では産学連携の試みでもあった。産学連携が本格したことも、90周年以後の本学の特徴であったが、岡崎学舎では、社会人基礎力育成と産学連携を組み合わせ、成果をあげた。そうした産学連携の事業はさまざまなかたちで展開され、平成23年度(2011)には、家政学専攻でも、「デンパーク和食処ふるさと館メニュー開発『平成の箱寿司』」、「あいち三河農協茄子を使った商品開発(まちの活性化に資する活動支援事業)」、「東康生商店街 Jazz Streetディスプレイ制作『JAZZ DAIMYO』」などの活動が実績をあげている。

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