第1節 戦時下での教育

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昭和18年、戦争に伴う学校令の改正によって師範学校は専門学校程度となり、同時に従来の中学校、高等女学校、実業学校は、すべて中等学校と変り、本校は中等学校令実業学校規程により修業年限を4か年(国民学校高等科修了は2か年)とすることとなった。本科師範部では昭和7年以来職業学校の中心的存在で、多くの卒業生が全国の小学校に就職し、高く評価されてきたが、この学校令改正により教員資格の取得が不可能となったため本科師範部を廃止し、同時に本科農業部・商業部の設置の認可をえて出発したのが、昭和19年4月であった。
この期に本科農業部、本科商業部を設置したことは、戦時下の食糧増産が強化されながら、働き手の出征のため労働力の不足をきたし営農の中心は主婦の手に移り、なれない耕作や供出など重荷を背負わされることになったためであり、また一方では女性の職場進出が多くなったので、産業界の要請にもとづき、実社会に役立つ女性を養成する目的でもあった。即ち両部の設置のねらいは、時代の要請にこたえたものであった。

文部省告示 第三十五号 (官報十九年一月二十六日付)
愛知縣碧海郡安城町ニ設置セル安城女子職業学校ニ昭和十九年四月ヨリ左記学科ヲ設置シ従来ノ本科師範部ヲ昭和二十一年三月二十一日限廃止ノ件 昭和十九年一月二十二日認可セリ
昭和十九年一月二十六日
文部大臣 子爵 岡部長景

一、本科農業部
 入学資格 国民学校高等科修了程度
 修業年限 二年
一、本科商業部
 入学資格 国民学校初等科修了程度
 修業年限 四年

安城女子職業学校学則(抜粋)
1、本校の目的
本校は中等学校令実業学校規程に依り皇国の道に則り婦徳を涵養し家政、商業、農業に関する知見の啓培技能の修練に努め天業を翼賛し奉る皇国女性を錬成するを以て目的とす。
2、教科組織修業年限定員等
(上記図版「教科組織修業年限定員等と女子専門学校 学科課程及授業時間 昭和19年度」右参照)

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昭和17年の勅令により、以後職業学校本科師範部第3学年は、12月に繰上げ卒業をすることになった。この事態について本校では学力低下を憂慮し、翌年1月より3月まで特設補習科を設置して、学術技能の補習に努め、生徒に充分な自信をもたせて教員検定に応ずるように配慮した。補習科修了者数は、17年34人、18年25人、19年29人であった。

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専門学校では6か月の繰上げ卒業となり、17年9月25日本科生の第13回卒業式に始まり、20年9月28日の第19回の卒業式に至るまで、3か年の修業年限が2か年半に短縮されたのである。
戦局がますます深刻化した昭和20年3月27日に挙行された卒業式の内容は、勤労学徒として殆どの学生は工場へ動員中に行なわれた異例のものであり、その式次第はつぎの通りであった。

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安城女子専門学校(別科)
安城女子職業学校卒業證書授與式次第
昭和20年3月27日午前10時
一、校旗入場
二、一同敬礼
三、国民儀礼
四、開式之辞
五、国歌奉唱
六、勅語奉讀
七、卒業證書授與
 1 専門学校別科卒業證書授與
 2 職業学校各部卒業證書授與
八、賞状並表彰状授與(職業学校)
 1 愛知県賞授與
 2 学校優等賞授與
 3 皆勤賞状授與
九、学校勤労報国隊表彰状授與
 1 専門学校表彰状授與
 2 職業学校表彰状授與
十、工場賞授與(工場側)
 大同製鋼安城工場、帝国製絲、愛三製絲
十一、学校長誨告
十二、工場側惣代 挨拶
十三、来賓祝辞
十四、在校生惣代 送辞
十五、卒業生惣代 答辞
十六、保護者惣代 挨拶
十七、卒業の歌「花かおる」
十八、送別の歌「学びの庭に」
十九、閉式の辞
二十、一同敬礼
退 場

戦局の進展によって昭和20年2月「中等学校卒業者ノ勤労ニ伴フ附設課程トシテ専攻科設置ノ件」の通告がなされた。
これによって本校も学則を変更し、修業年限1年の専攻科を設けることになったが、21年この科の卒業生は16名であった。
この専攻科は、20年8月15日終戦を迎えたのでわずか1か年で終止符をうつに至った。

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昭和19年、大都会にある学校は地方に疎開を始めた。空襲を受けることが比較的少く、そして、食糧事情の幾分らくな田舎の安城へも続々入学し、生徒が増加する傾向があらわれた。
この頃毎年の行事として修養会が行われ、東京修養団本部から講師を招いた。昼は修養の話、夜は安城公園のプールでみそぎをし、学校へ帰って板の間に正座して講演をきいた。女専でも1月の寒中に伊勢の五十鈴川をみそぎ場として「行」にはげんだ。朝まだ明けやらぬうちに神社参拝、続いて清掃、訓話をうけたがそれらは精神修養へのひたむきなはげみであった。
また、故三蔵先生の修身、清掃についてのきびしい指導は徹底していて、生徒は掃除が少しでも楽しく出来るように、毎朝修養歌を合唱しながら廊下、教室、下駄箱、ふみ板に至るまで乾拭をした。その結果床などは輝いて姿が映るほどであった。
また本校の建学精神である「真心・努力・奉仕・感謝」を実践内容とするパンフレット「正しい一日の生活」が出されたのもこのころである。

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日々の反省(抜粋)
1 報恩奉仕は心から出来ていたか。
2 父母や先生方に御心配をかけなかったか。
3 何か善い事をしたか。
4 世の為人の為に、少しでも働いたか。
5 心と口とが行に一致したか。
6 何事にも何物にも、よく感謝したか。
7 誰に対しても、ニコニコ出来たか。
8 物事を粗末にしたり、無駄にした事はないか。
9 お食事はおいしく喜んで頂いたか。
10 人様の悪口を云はなかったか。
11 仕事にかげひなたは無かったか。
12 人様に迷惑をかけた事はないか。
13 我がままうぬぼれはなかったか。
14 人様を訪ね手紙を出すのを忘れていないか。約束をよく守ったか。
15 身体中、どこも故障はないか。
16 よく聞き、よく考え、よく見たか。
17 忠告を正直に受け入れたか。
18 決戦下の学徒として、神様に見られて悪いような事はしなかったか。
なお、体操の時間は薙刀の練習や、軍事教練の時間にかわり、少しでも怠けたり、欠席したものは、科目が不合格となった。

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