第4節 学園の教育・研究──建学の精神に基づく教育の推進

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1 私たちの仕事はまちづくり(地域との連携)
基本的な教育方針
寺部曉理事長は、建学の理念・建学の精神の具現化及び実践を通して本学園の教育のスタンスを明確にした。明治45年(1912)に創立者寺部だい先生が「人は誰でも無限の可能性を持っている、可能性の限界まで開発する」ことを教育信条として安城の地に本学園を創立した。寺部曉理事長は、この創立者の教育信条を時代の変化と本学園の立地する地域の要請を踏まえて「まちづくり」をテーマに建学の理念・建学の精神の具現化と実践を図ることとした。寺部曉理事長は、平成14年度(2002)の第14回安城学園報告討論会の基調講演で、「私たちの仕事はまちづくりです」と題して話し、本学園としての教育の方向性を明確にした。寺部曉理事長は、第4回安城学園報告討論会の基調講演で「明治以降、本学園の教育の役割はくにづくりのためのひとづくりを行うことであった。現在、くにづくりは一定の段階を迎え、地域づくり・まちづくりが重要な課題となっている。新しく国を再編するためには地域の自立が求められる。国民国家は国家と国民を中心とするが、国家と国民だけでは社会も生活も成り立たない。そこで注目したのが国家と国民をつなぐ中間点ともいえる『まち』である。今後求められるのはまちの問題を具体的に捉え、政策を立案し運動にまで高める能力である。本学園の教育目標は、『まちづくり』を土台にした『ひとづくり』を行うことである。」と述べ、本学園の教育目標を全教職員に対して明らかにした。
本学園の教育は、4つのステージを設定した。第1ステージは授業として教室の中で行う教育、第2ステージはクラブ活動やサークル活動など学内の教室の外で行う教育、第3ステージは産学・官学連携など地域と協力して行う教育、第4ステージは海外留学や語学研修など海外の姉妹校などと連携して行う教育であり、この4つのステージが繋がって幅広い知識の習得を可能にすることである。授業やクラブ活動など課外活動を中心にした第1ステージと第2ステージだけで、第3ステージと第4ステージが密接に繋らない教育は、本学園が目指す役立つ教育ではないと寺部曉理事長は述べている。私たちが目指すまちづくり教育は、「まちと繋がる教育を行っているか。単に繋がるだけでなくまちと協働作業で何かを作り上げているか。その結果、まちに安城学園のファンができているか。以上の教育が推進されて学生・生徒にとっての教育が活性化されているか。」を自問しながら、これらを満たす教育を行うことであり、これらが達成されてこそ「私たちの仕事はまちづくり」と自信をもって言える教育とした。このことは、単に第3ステージである地域に出ることだけを意味するものではない。第1ステージと第2ステージでの教育を実践できており、教職員一人ひとりが学生・生徒・園児の無限の可能性を引き出し、自らの潜在能力を開発することが必要である。このことをより可能にするために本学園では、面倒見の良い学校を目指して学生指導に取り組んでいる。そのために、規模の適正化を考え教職員一人あたりの学生・生徒・園児の数を20名としている。
本学園のまちづくりの教育を第1ステージ、第2ステージから再構築するために、父母・地域から理解され共感を得る教育を行うことが本学園の共通の目標でもある。この目標が現実味を増すことが「私たちの仕事はまちづくり」につながる。本学園が立地する三河のまちが抱えている問題を解決する中で安城・岡崎・豊田の各市を住みやすいまちにすることである。まちの問題を解決する政策を立案し、提言できる力を身に付けることが建学の理念である「庶民性と先見性」の具現化に繋がる。そしてまちづくりに貢献することで地域から支えられる学園になる。このような観点から本学園は、官学・産学連携協定を締結し地域社会の発展に寄与する教育を積極的に展開している。

地域との連携
岡崎市との連携
岡崎商工会議所との連携
岡崎市内の7つの大学・短期大学(愛知学泉大学・愛知学泉短期大学、愛知産業大学・愛知産業大学短期大学、人間環境大学、岡崎女子大学・岡崎女子短期大学)で構成する岡崎大学懇話会は平成9年(1997)の結成以来、岡崎市の様々な課題の解決に向けて、大学と地域がともに学び・交流する活動を行っている。その中で平成15年(2003)、本学園の理事長でもある寺部曉愛知学泉大学学長の提案により大学間の交流活動、地域貢献活動、産業振興など様々な取り組みを推進する活動拠点として、岡崎市中心市街地にある松坂屋岡崎店に「サテライトオフィス」を岡崎商工会議所と連携して設置した。「サテライトオフィス」では岡崎のまちづくり、地域活性化フォーラム、学生フォーラム等を開催し、事業を平成21年(2009)まで実施した。平成22年(2010)以降は場所を岡崎商工会議所に移して同事業を継続して実施している。

「岡崎げんき館」PFI事業
平成20年(2008)3月に開館した「岡崎げんき館」は、保健所を核とした健康づくりのための岡崎市の公共施設である。岡崎市内で初めてPFI手法を用いて岡崎げんき館マネジメント株式会社が維持管理・運営等を行っている。この岡崎げんき館マネジメント株式会社の構成員に本学園も加わり、他の構成企業と共に地域の健康づくりと子育て支援活動に貢献している。その中で短期大学幼児教育学科と大学家政学部の教員が「こどもと親のための公開講座」、「健康づくり支援特別講座」「保育者のための幼児教育保育講座」といった公開講座を毎年度開催している。又、「学泉短大のお姉さんと遊ぼう!」「学泉大のお兄さんお姉さんと遊ぼう!」企画では、学生がボランティア活動として託児コーナーに出かけて遊びプログラムを提案し、生きた教育の現場を体験し、彼らが教師として社会に出たときに役立つものとなっている。

安城市との連携
安城市との臨時避難所提供に関する協定
平成18年(2006)3月、安城市と学校法人安城学園は大規模地震に伴う災害が市内において発生し、または発生のおそれのある場合における業務協力協定を締結している。これに基づき、本学園は災害時に安城市からの要請に基づき安城学園高等学校の体育館、食堂を臨時避難所として施設の提供することに協力することとした。

安城市中心市街地地域活性化協議会での取り組み
平成22年5月、安城商工会議所等が取り組む安城市の中心市街地活性化協議会が発足するにあたり、安城商工会議所からの要請を受けて本学園は、協議会の各種の様々な活動に協力、参加することとなった。

PBLの実践(産学連携・官学連携の取り組み)
本学園は、平成18年からの株式会社ココストアとの連携事業を契機に、これまで様々な企業・団体と産学連携・官学連携事業を行っている。その中で学生たちは教室の中では経験できないことを体験し、それらの実践を通して「社会人基礎力」を大いに向上させている。(PBL:Project Based Learningのこと)

安城商工会議所との産学連携
愛知学泉大学は平成21年から安城商工会議所を産学連携パートーナーとして「学生が主体的になって課題解決に当たる」事業に取り組んでいる。平成21年、家政学部は「日本一の地域特産『イチジク』を使った加工商品の開発」、経営学部は「『まちの教室』を活かした安城中央商店街の繁盛街づくり」、コミュニティ政策学部は「日本三大七夕である『安城七夕まつり』の新しい可能性の発見」の各産学連携事業に取り組んだ。さらには平成18年から始まった産学連携による弁当開発は平成22年で第4期を迎え、新しく安城市商店街のお弁当屋さんと連携し、手作り弁当の開発に取り組んだ。

豊山町との官学連携
愛知学泉大学コミュニティ政策学部は、平成20年から愛知県豊山町と人的・知的資源の交流と活用を図り、豊山町を活性化しようとする地域貢献型の官学連携事業に取り組んでいる。この連携では、豊山町の行政職員とともにまちづくりの課題を調査・研究し、市民と協働して実現するまちづくりプロジェクトを提言し、豊山町第四次総合計画「都市計画マスタープラン」策定に活用することを目的としている。庁舎内には「プロジェクト室」が設置され、豊山町民や役場の職員と大学生・大学教員との交流の場として活用されている。

豊田市との官学連携
愛知学泉大学コミュニティ政策学部は、平成21年から平成23年(2011)にかけて豊田市逢妻地域との共同参画事業「安全・安心・ゆとりの通学路事業」に取り組んだ。これは、豊田市が推進する「官民共働(協働)事業」、「地域予算提案事業」として、逢妻地域の2つの小学校の通学路が「安全・安心・ゆとり」のあるものとなるよう、自治区、学校、企業、関係団体の協働によって進められた。事業内容は次のとおりである。

① 現在の交通状況についての専門的調査、ヒヤリハットマップ作成
② 逢妻地域に特化した安全啓発教材、グッズ作成
③ 地域主体で、子どもからお年寄りまで楽しみながら学べる交通安全イベントの開催
④ 事業実施による効果の測定、実施の内容を冊子化して配布

本学園では官民共働(協働)事業を通して、学生が「社会人基礎力」を育成するよう、学生達は地域活動の内容とその成果を自身で纏めた。そして、学生指導にあたった専門家による外部評価を通して学生達の学びの成果測定を行った。

2 社会人基礎力の導入
基本的な教育方針
18歳人口の減少とともにわが国の大学を取り巻く環境は劇的に変化してきた。特に、学生募集においては、学生確保が非常に重大な問題となり、多くの大学で定員割れの状況が生じるようになった。同時に、OECDの調査などから学生の質が低下し、日本の国際的順位は米国をはじめとする先進国に大きな遅れをとるようになった。大学の現場においても、「学ぶ意欲が希薄な学生」、「学ぶ歓びを知らない学生」が増加しているなどの報告がなされている。このような状況を危惧した文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会は、大学教育の質を高め、社会的に保証するために「学士力」という考えを答申し、併せて教育改革の必要性を提唱した。こうしたことから、日本の多くの大学が教育改革に取り組み、入学者の確保、出口の確保及び差別化に取り組み始めた。
本学園は、「学生の学ぶ意欲をどのようにして喚起することができるか、如何にして学ぶ歓びに結びつけていくことができるか、そしてその課題に真剣に取り組まないとたとえ専門的な知識・技術を身につけたとしても社会に出たときに役立たない」という危機感から教育改革に取り組み始めた。最初の取り組みは、「知識を身につけるだけでなく、知識を活用して『~ができる』ことを実感できる生きた学びの場を用意することにより、学生たちがさらに自ら学ぼうとする意欲を駆り立てることが出来るのではないか」と考えた。そのため、生きた学びの場を創出するために平成18年(2006)に株式会社ココストアと産学連携協定を結び、家政学部及び経営学部の学生が健康弁当の開発プロジェクトに参加した。このプロジェクトに参加した学生は、「やり遂げた」という大きな達成感と自信を得ることができた。同時に専門知識に対する学びも以前にまして進化を遂げ、逞しく社会で生き抜く力(社会人基礎力)をも培うことができた。指導に関わった教員も学生が能動的に学習する環境を作り、支援者として学生に働きかけることで学生に自ら学ぶ意欲を喚起できるということを実感することができた。幸いにも本学園は、平成19年(2007)に経済産業省の提唱する大学教育モデル事業「社会人基礎力育成評価事業」のモデル大学として採択され、「学んだ結果に対する従来型の評価」だけでなく、「自己評価・他者評価を活用した振り返りと気づきのための評価」を教育の現場に取り入れている。本学園が教育に取り入れた「社会人基礎力」とは、経済産業省が提唱した「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」といった「職場や地域社会で働く上で必要な能力」として定義しているものである。
本学園は、平成20年度(2008)にこの社会人基礎力を核にした体系的教育プログラム『無限の可能性』を開発し教育改革を行った。併せて、本学園の教育目標を「基礎学力・各学部における基礎的でかつ体系的な知識及び技術・社会人基礎力を統合的に身に付け、職場や地域の活性化に貢献できる人材を育成することである。」と明確にした。大学4年間の教育において各学部で教育目標を達成させるためのシラバスの改革やFD活動に取り組んだ。社会人基礎力を育成するために全ての科目に達成可能な能力要素を明記し、基礎学力、専門知識・技術及び社会人基礎力の三位一体教育を展開することとした。

カリキュラムとしての社会人基礎力育成の導入過程
本学園は、教育目標に基礎学力、専門知識・技術、社会人基礎力を統合的に身につけ、地域社会に貢献する人材を育成することを明確にし、三位一体教育を実施することが本学園のミッションであることを明示した。この教育を実践するために、平成20年度に社会人基礎力を核にした体系的教育プログラム『無限の可能性』を開発し、大学教育の確立に取り組んできた。この教育プログラムを全学的に取り組むために、法人本部に理事長直轄の社会人基礎力育成室を設置するとともに、大学に学長、学部長、教務委員長及び関係教職員を構成メンバーとする社会人基礎力推進委員会を立ち上げた。
社会人基礎力育成室は、社会人基礎力推進委員会の議論を経て家政学部、経営学部及びコミュニティ政策学部での社会人基礎力育成に関するプログラムや産学連携プログラム等について企画・立案している。また、官学・産学連携及び各種団体との協定の締結などの原案の策定や交渉の窓口としての役割を担っている。社会人基礎力推進委員会は、各学部における社会人基礎力の育成のための教育プログラムや科目の設定、事前・中間・事後の自己の振り返り、外部評価者による評価の実施など具体的なプログラムの推進に当たっている。
教育プログラム『無限の可能性』の核をなす社会人基礎力の育成は、3段階の過程、すなわち1年次における「各能力要素の理解と習慣付け」、2年次の「専門分野との関連付けとその応用」、3・4年次の「社会的場面での応用、展開」を経て達成するようにプログラムが組まれている。

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家政学部、経営学部及びコミュニティ政策学部では、社会人基礎力の育成をより効果的にするとともに重要な役割を果たす事前・中間・事後振り返り(リフレクション)を行っている。「事前振り返り」の自己評価は、学生が自分に向き合って自己を形成する要素や「強み」、「弱み」は何かを自己確認する。「中間・事後振り返り」では、自己評価に加えて他者評価が加わる。個々の学生は、この他者評価を行う企業の人事担当者やキャリアカウンセラーなど外部協力者から気づきのための評価を受ける。これは「学んだことの評価」でなく「学ぶための評価」「学び直しのための評価」である。現在、外部評価者として約15名のキャリアカウンセラー及び企業の人事担当者の方々の協力を得ている。

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今後、社会人基礎力の育成に重要な役割を果たすのが「授業・活動記録シート」である。このシートは、授業で身につけた専門知識、理解できなかった事柄、社会人基礎力の12の能力要素の中で伸ばすことができた要素や場面、力を発揮できた場面、できなかった場面を記録する。このシートは、担当教員がコメントやアドバイスをフィードバックし、学生の意欲を育てるのに効果的である。学生はこのシートに科目ごとにファイリングして自己の活動・成長記録として卒業まで保管する。この作業は、多くの教員や学生双方にとって多くの時間と大量のエネルギーを要する作業になるが、学生にとって自己の「気づき」を促すツールになるとともに事実を文章にまとめる力・論理的思考能力を養うことになる。現在、特定の科目においてのみ実施されており、将来全ての科目に導入するよう取り組みをしなければならない。

教育プログラム『無限の可能性』の展開で重要視しているのがリテラシー教育の取り入れである。大衆化された社会での「読み・書き・そろばん(計算)」能力である近代的リテラシーとコミュニケーション技法、情報収集・分析技法、分類・構想・表現法といった知識・情報の活用力である現代的リテラシーを取り入れる。現在、各学部の授業における理解目標を明確にし、授業設計書をシラバスで全学に公表している。そして、ゼミ、実習、実験だけでなく通常の授業でもペア・レビュー、グループディスカッションなどを取り入れ、参加場面を提供することで学生の学習意欲と理解度を高めるようにする。一方、教員はより魅力ある授業の改革のために、FD(Faculty Development)活動を行う。授業の研究や教員同士の教育方法の議論や発表会を実施して学生を多方面から支援する体制を整えるようにしている。
近年、学生の基礎学力低下による大学の授業運営が問題視される中で、初年次教育とリテラシー教育のウエイトはますます高くなっている。このリテラシー教育の取り入れやFD活動は、まだ一部の科目や一部の学科で取り組まれており、全学での取り組みに拡大することが課題である。

PBLの実践(産学連携協定の締結)
本学園ではこれからの時代に向けて「まちづくりのためのひとづくり」を必要と考え教育の再構築を進めた。職場や社会の中で多様な人々と共に仕事をしていくために必要な基礎的な力である「社会人基礎力」の育成である。地域社会で即戦力として活躍できる人材育成に重きをおき、実学を学びの中心とした教育プログラムの開発に取り組んだ。その中心となったのが企業と連携したプロジェクトに学生が取り組む産学連携活動である。当時はまだ文系大学では事例の少なかった産学連携活動を取り入れ、企業と連携したプロジェクトを通し本当の意味での実務教育を目指す『PBL(Project Based Learning)』の取り組みを進めた。
愛知学泉大学では平成18年度からコンビニエンスストアチェーン「ココストア」(愛知県名古屋市)と連携協定を結び、ココストアで販売する弁当開発の産学連携事業をスタートさせた。家政学部家政学科家政学専攻と経営学部の学生がプロジェクトに参加し、「若い女性向けヘルシー弁当」をテーマとした弁当の開発に取り組んだ。家政学専攻では井関道夫教授指導のもと大学で学ぶ食の知識や技術を発揮して商品企画を行い、経営学部では浦上拓也准教授指導のもと統計学の手法を活用したマーケティング調査を実施して商品開発に必要な情報の提供を行った。企業との検討会を重ねて作り上げた商品は、「プチっと★美彩弁当」として平成19年3月に東海地区のココストアにおいて発売され、好調な売れ行きを示した。
ココストアとの産学連携事業は翌年以降も継続され、平成19年度からは安藤明美教授指導のもと、家政学部家政学科管理栄養士専攻の学生によりいっそう活発な取り組みが進められた。この年度に開発した「午後力弁当」は、健康をテーマとしコンビニエンスストアの主要客層である20代から30代男性をターゲットとして考案された。この弁当は平成20年3月にココストアで発売され、約2万食の販売を記録した。平成ニ10年度には弁当開発の他に食育啓発を目指したオリジナルの食事バランスガイドを作成し、「Coco!版食事バランスガイド」としてココストアの店頭に掲出された。管理栄養士専攻における産学連携弁当開発の取り組みは平成21年(2011)3月にココストアから第2弾の弁当が発売された後、翌年度からは安城商工会議所(愛知県安城市)と連携し、JR安城駅前の商店街における惣菜店との弁当開発として継続されることとなる。ココストアとの連携については、家政学専攻において相原英孝准教授指導により、愛知県の食文化を調査・考案した「愛知の味ふるさと弁当」を開発し、平成21年4月にココストアから2種類の商品が発売された。

文系大学における産学連携という先進的な取り組みはマスコミからの注目も大きく、ココストアとの連携協定調印式の模様は地元テレビ局や新聞社など多くのマスコミで報道された。また、平成18年度と19年度の弁当開発活動は、地元テレビ局からの長期間に亘る取材を受け、ニュース番組の中で特集としてとりあげられた。
企業や団体と連携したプロジェクトに参加することで、学生は教室の中ではできない体験と学校で学ぶ知識・技術の活用を経験し、それらの実践を通して「社会人基礎力」を大いに向上させることとなった。平成20年からは経済産業省の「社会人基礎力育成・評価システム構築事業」を受託し、平成20年、平成21年には家政学部家政学科管理栄養士専攻のチーム(指導教員:安藤明美教授)が経済産業省主催「社会人基礎力育成グランプリ」に出場し準グランプリ(平成20年)、奨励賞(平成21年)を受賞した。
大学・短期大学の産学連携によるPBLの実践は拡大し、各学部、専攻において様々な活動が行われることとなる。
経営学部では平成20年11月に、食肉販売やスーパーマーケットを展開する株式会社ヤマト(愛知県豊山市)と産業連携協定を締結した。経営学部の学生は、実際の店舗を対象に市場調査として顧客の意識調査アンケートを実施し、そこで得たデータから「売れる店舗作り」を提案する取り組みが行われた。顧客の意識調査アンケートでは、学生が様々な世代の顧客に今回の趣旨を丁寧に説明することで、多数の調査結果を得ることができた。この調査結果からスーパーの抱える問題点を分析し、解決を目指した提案に取り組んだ。
愛知学泉短期大学においても産学連携活動によるPBLの取り組みが展開された。
食物栄養学科では平成20年7月に、外食店舗「丈山の里いずみ庵」などを経営するいずみ製菓株式会社(愛知県安城市)との産学連携協定を締結した。この取り組みは、根間健吉准教授の指導により愛知学泉短期大学食物栄養学科1年生全員が参加して進められた。実際の店舗を元に「地産地消による新メニューの開発」「栄養分析・栄養成分表示」「麺のカビ対策研究」に取り組んだ。平成22年(2010)7月には学生の提案したメニューが採用され、「美豚(びとん)野菜そうめん」として丈山の里いずみ庵において販売され好評を得た。
生活デザイン総合学科においては、山本豊准教授のゼミが「ガラ紡布」を素材とした服飾のデザインと製作に取り組んだ。かつて三河地方で栄えたガラ紡布産業の復興を目指した取り組みで、学生によりガラ紡布の特徴を活かしたデザインと制作が行われた。平成20年11月には岡崎市市民まつりにおいてファッションショーが行われ、学生が制作した作品を披露した。企画・演出も学生が自ら手がけたファッションショーは好評を博し、翌年以降も継続して開催された。

3 高大・高短教育連携の展開
基本的な教育方針
大学・短期大学への進学率は平成17年(2005)には50パーセントを超え、平成10年頃から、大学が学生を選ぶ側から学生に選ばれる側となった。一方で、この10年間を見ても15歳・18歳人口はそれぞれ約30万人減少し、私立学校では高等学校・大学・短期大学ともに、学校の特色を強化して新たな魅力の創出が必要な時代になってきた。文部科学省中央教育審議会でも平成11年(1999)12月に「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」の答申を出し、初等中等教育と高等教育との接続の改善を図ることを目指した。
本学園では、平成12年(2000)6月17日に「縦の接続・横の連携」をテーマにして「第2回安城学園報告討論会」を開催した。基調講演の中で寺部曉理事長は「本学園の最重要課題は系列校同士の接続である。募集の不安定な時代を乗り切るには、この縦の接続がぜひ必要である。また地域とともにつくる学校運営も重要であり、これが横の連携の大きな柱である」ことを強調した。
また、平成21年(2009)6月20日の「第11回安城学園報告討論会」では、「安城学園の高・大(高・短)教育連携の更なる進化を目指して!~『社会人基礎力』をキーワードにして!~」をテーマに議論を展開した。
そして、平成23年(2011)6月18日に「第13回安城学園報告討論会」では、「教育にイノベーションを!~高大・高短教育連携~」をテーマに、高校と大学・短期大学間の教育連携について積極的に議論し、さらに理解を深めた。
これらの高大連携に関する議論の中で重要なポイントは、単なる進学・募集活動だけで連携するのではなく、教育活動において連携することである。また昨今はリメディアル教育の必要性が増しており、その意味でも高等学校と大学が教育連携して対応することが重要かつ必要になってきていることである。

教育連携協定の締結
平成22年(2010)3月25日、愛知学泉大学と安城学園高等学校との間で「愛知学泉大学と安城学園高等学校との高大連携に関する協定書」を、愛知学泉短期大学と安城学園高等学校との間で「愛知学泉短期大学と安城学園高等学校との高大連携に関する協定書」をそれぞれ交わした。その第一歩として高校生に向けた大学教員の出前講座や安城学園高等学校の生徒を対象とした学校見学会等を開催した。また、大学のオーケストラ部と高校の弦楽部は、コンサートや練習等を合同で共演することにより、高校生にとってより高いレベルの音楽を体験できる良い機会となっている。
大学では平成20年(2008)12月10日に、名古屋市西区にある啓明学館高等学校(締結当時の校名は愛知女子高等学校)との間で「啓明学館高等学校と愛知学泉大学との教育連携に関する協定書」を交わした。
この協定に伴い、平成21年度から毎年「啓明学館高等学校の生徒を対象とした独自の学校見学会を実施」「中学校教師を対象にした啓明学館高等学校主催のマナー研修等に講師を派遣」「啓明学館高等学校の入学説明会で提携校として大学紹介を実施」「啓明学館高等学校の新入生オリエンテーション合宿で大学生活全般を紹介」「教育連携校の入試枠を開設」「クラブ指導の交流」「双方の行事(文化祭・卒業式等)で来賓として招待」等を行い、相互に積極的な活動を展開している。

4 新しい教育モデルの構築
基本的な教育方針
本学園では「現代社会の中で人々が直面する現実の諸問題を適切にかつ実践的に解決していくことのできる能力を持った人間の育成すること」をこれからの本学園が取り組む教育課題として取り上げ、教育にイノベーションを興そうと考えている。そのためには、従来の教育モデル「知・徳・体」では対応できないとし、新しい教育モデル「知・徳・体・行」を構築した。具体的には、「PISA型学力を核にした教育」(知)と「建学の精神を核にした教育」(徳)と」社会人基礎力を核にした教育」(行)を3本柱に据えるものである。

「PISA型学力を核にした教育」
従来の学校教育では知識・技術の獲得が先生にとっても学生にとっても最大の関心事である。そして、知識・技術がどれだけ獲得できたかをテストで測った。しかし、これからの社会では、知識・技術を獲得しているだけでは何の役にも立たない。知識・技術を活用して課題を解決できる能力、つまり、「PISA型学力」が必要である。そこで、本学園では、「知識・技術を獲得する」の「獲得」、「知識・技術を活用する」の「活用」、「知識・技術を活用して課題を解決する」の「解決」の頭文字を取って、「教育の3K」、「学習の3K」に注目し、「獲得」能力の育成→「活用」能力の育成→「解決」能力の育成まで視野に入れた教育システムを開発し、教育にイノベーションを興すこととした。

「建学の精神を核にした教育」
本学園の建学の精神は「宇宙の中の一つの生命体である人が人間として自立しつつありとあらゆる生命体と共生することによって、生きる意志と生きる力と生きる歓びに満ち溢れた鵬のような大局的な存在になること」である。この機会に簡単に解説しておく。
「生きる意志」と「生きる力」と「生きる歓び」に注目する。「生きる意志」が生きていくための基本である。しかし、「生きる意志」だけでは生きていけない。「生きる力」が必要である。そして、この建学の精神は究極的に「生きる歓び」に満ち溢れた存在になることを求めている。このことは、「真心・努力・奉仕・感謝」の四大精神を本心から実践できるようになれたかどうかで判断できる。基本形から「○○とともに生きる意志」「○○とともに生きる力」「○○とともに生きる歓び」という派生形を作る。「○○」のところに「自己」を入れると、「自己とともに生きる意志」「自己とともに生きる力」「自己とともに生きる歓び」となり、「自立」を意味する。「○○」のところに「他者」を入れると、「他者とともに生きる意志」「他者とともに生きる力」「他者とともに生きる歓び」となり、「共生」を意味する。「○○」のところに「地域」を入れると、「地域とともに生きる意志」、「地域とともに生きる力」、「地域とともに生きる歓び」に満ち溢れた人材の育成を本学園の教育の課題とした。
このように活用して、教育にイノベーションを興そうと考えている。因みに、「生きる意志」は創立者寺部だい先生から、「生きる力」は寺部清毅前理事長から拝借した。

「社会人基礎力を核にした教育」
「知・徳・体・行」の「行」は「行動特性」のことである。従来の教育では「行動特性」を正面から取り上げてこなかった。本学園では、「職場と地域社会で多様な人々と仕事をする上で不可欠な行動特性」として経済産業省が提唱した「社会人基礎力」をベースに、これを「共通の目標を複数の人間で実現する際に不可欠な行動特性」と読み替えて、大学教育及び短期大学教育に取り入れてきた。

「東日本から学ぶ」プロジェクト
平成23年3月11日に宮城沖太平洋で発生した大地震は、未曽有の大津波を発生させ、東日本地方に甚大な被害をもたらした。この大震災に対して、多くの大学生、高校生、教職員が被災地に出かけ、ボランティア活動や演奏会等を実施した。また、それらの活動を通して多くの人々との交流も生まれ、東日本の方々の生きる逞しさやエネルギー、そして日本の発展に果たしてきたこの地域の役割の大きさにも気づかされた。
そこで本学園では創立100周年を記念して、「東日本から学ぶ」プロジェクトを立ち上げた。学生・生徒・園児の総合学習としてだけでなく、教職員も含めた大人の生涯学習として長期的な視野で続けることができる教育活動の場にした。
本学園としては、100周年事業の一環として平成24年(2012)8月から9月にかけて安城市文化センターにおいて「東日本から学ぶ」連続講演会を開催し、全5回で延べ832人が来場した。被災した自治体の市長や地域の文化等を研究している学者、支援活動に携わった記者等を講師として招き、震災当時の様子やその後の復興状況、支援者として感じたこと、東北地方の文化や自然の有り難み、それから地域における絆の大切さなど様々な角度から多くのことを学んだ。

各設置校でも様々な「東日本から学ぶ」プロジェクトが実践された。義援金募金の活動や被災地での復興支援ボランティアなどはもとより、総合学習のテーマとして学祭の展示発表等を実施した。さらに現地の高校や市民団体と合奏した「東日本と愛知をつなぐ」オーケストラコンサート、小中高校生に対するバスケットボール教室・野球教室など、被災地の人々との交流も盛んになった。そして、それらの交流によるつながりから、現地からサンマを直接仕入れて学祭で振る舞ったり、生徒会同士がお互いの学園祭を訪問し合ったりする等、東日本の人々とさらに強い絆ができている。

安城学園創立100周年記念事業
明治45年(1912)4月に安城裁縫女学校を開設してスタートした本学園は、平成24年度に創立100周年を迎えた。この1世紀を振り返って本学園の教育の原点に戻り、次の1世紀に向けて新たな一歩を踏み出すために、「教育にイノベーションを!─『無限の可能性』に挑戦─」をテーマに様々な記念事業・行事を実施した。

・記念式典
開催日 平成24年11月22日(木)
会場 安城市民会館
・記念祝賀会
開催日 平成24年11月22日(木)
会場 安城学園高等学校体育館

記念式典には在校生・卒業生・教職員の他、教育関係者等併せて約1,200名が出席した。来賓として大村秀章愛知県知事、神谷学安城市長、烏山大学の孔庚鎬総長から祝辞があった。また姉妹校であるカピラノ大学からオリジナルのガラス工芸品の贈呈があった。記念企画として愛知学泉大学オーケストラ・安城学園高等学校弦楽部・第9特別合唱団「フロイデ」によるベートーヴェン交響曲第9番の演奏が行われた。
なお、翌23日(金)には第9の演奏会を一般公開し、地域の人々に楽しんでいただいた。
記念祝賀会では、鈴木政二参議院議員の挨拶に続き、地元安城市出身の山本正之氏作詞・作曲による安城学園応援歌「勇気の星」を安城学園高等学校合唱部が披露した。また「東日本から学ぶプロジェクト」で交流が生まれた岩手県大船渡市・陸前高田市からのゲストも参加した。
100周年の記念品として岩手県陸前高田市の酒造会社・酔仙酒造株式会社による新酒を来賓に贈呈した。東日本大震災の復興支援として「学びの泉」の銘柄で特別に造られたお酒である。

この他、創立100周年を記念して様々な事業・行事を行った。

・「東日本から学ぶ」連続講演会   会場 安城市文化センター
「3・11 東日本大震災… 陸前高田の今」  開催日 8月11日(土)
講師 戸羽太氏(陸前高田市長)
「震災・復興・文化」  開催日 8月18日(土)
講師 赤坂憲雄氏(福島県立博物館館長)
「震災を伝える~取材者として、支援者として」  開催日 8月25日(土)
講師 関口威人氏(フリージャーナリスト)
「森は海の恋人」  開催日 9月15日(土)
講師 畠山重篤氏(森は海の恋人理事長)
「東日本から人間の生き方を学ぶ」  開催日 9月16日(日)
講師 門田晃明氏(大船渡市盛青年商工会会長)
天野竹行氏(NPO愛知ネット理事長)

・安城学園創立100周年の歩みと寺部だい生誕130周年資料展
・コラム「教育にイノベーションを─安城学園100年の歴史と展望─」の単行本化
・100周年ポスター制作
・東日本から学ぶプロジェクト基金
・東日本と愛知をつなぐサマーコンサート
開催日 平成24年8月18日(土)
会場 気仙沼市民会館
開催日 平成24年8月19日(日)
会場 大船渡市民文化会館
・大学オーケストラ定期演奏会 創立15周年記念公演 特別企画「夢のさなか」
開催日 平成25年3月24日(日)
会場 刈谷市総合文化センター

他、各設置校の記念事業・行事は次のとおりである。

愛知学泉大学(岡崎学舎)・愛知学泉短期大学
・100周年記念ホームカミングデー(同窓会と共催)
・100周年記念ファッションショー
・家庭科教員セミナー
・無限の可能性への道を切り開く社会人基礎力育成グランプリ
開催日 平成25年2月27日(水)
会場 岡崎市竜美丘会館
・バスケットボールクリニック&ボランティア活動

愛知学泉大学(豊田学舎)
・コミュニティ政策学会 第11回全国大会
・サンマ祭り(豊田学泉祭と共催)
・東日本復興支援ボランティア活動
・地域社会デザイン総合研究所シンポジウム
開催日 平成25年2月11日(祝)
会場 豊田産業文化センター

安城学園高等学校
・社会科東北セミナー
・教育にイノベーションプロジェクト 学園祭
・100周年記念芸術鑑賞会「ハロープリンス」
・安城学園カップ女子バスケットボール大会
・東日本から学ぶボランティア活動

岡崎城西高等学校
・創立50周年記念式典
開催日 平成23年10月28日(金)
場所 岡崎市民会館
・創立50周年記念講演 尾木直樹氏「親と教師が元気になる教育論」
・創立50周年芸術鑑賞会 浅野祥氏(津軽3味線)
・記念モニュメント「正門」の建設
・記念誌「写真で見る城西50年」の制作
・東日本から学ぶボランティア活動

3幼稚園
・航空写真クリアファイルの制作
・100周年オリジナルキューピーの制作
・ふれあいフェスティバル
開催日 平成24年12月15日(土)
場所 安城学園高等学校

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